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確証を得る

トーカに俵抱きされたまま理事長室に入ってくると、少し困ったように笑う理事長が俺達を出迎えた。そのままソファへと投げられたが、スプリングが受け止めてくれる。 俺の隣にどかりと座ったトーカに、理事長の秘書さんがお茶を出している。 「ご苦労様だったね」 「悪いが、逃がしちまった」 今回のことに二人は動揺している様子がない。 「あの…今回の敵襲って…」 「あれ、トーカ君から聞いてない…?」 理事長とともにトーカを見ると、本人はさして気にすることなくお茶を飲んでいる。 その様子を見かねた理事長が俺に説明してくれた。 「今回のことはとっくにわかっていたことなんだよ」 その時点でトーカに吼えてやりたかったが理事長の前なので、ぐっと我慢する。 「それでどうやら敵の目的が、なんとなくわかっていたからトーカ君も学園側としても警戒していたんだよ」 なるほど、人気が無かったのは生徒の避難が早かったということだろうか。 「敵の目的は…」 「そう、君だよ。シキ君」 ハスが言っていたことを振り返れば、俺をあちらに連れていきたいようだった。 「…ハスはあの傀儡人形たちを『羅紗(らしゃ)』と呼んでいました。音からして、やはり敵は…」 「私たちは東倭国だと考えてる」 確証と自信に満ちた眼差しで、そう断言した。 その様子を見てさらに俺は頭の中で仮説を立てる。なぜハスを泳がせ、わざわざ行動させたのか。 「つまり、今回トーカは俺を囮として使ってハスを捕えたかった、ということですか?」 チラ、とトーカを見ると意地悪そうに笑っている。俺としては、そういう作戦なら事前に言えと怒鳴り散らしたいのだけれど。この男が何を考えているかなんて今更だ。 まあそれも失敗したみたいだけど、と理事長は苦笑いをしている。 「でも君が無事でよかった」 「…どうも」 「それに、うちの生徒も保護できたしね」 理事長が、扉の方へと視線を向けるとそこにはあの場にいたノア、会長そして副会長がいた。会長は俺を視界に入れた瞬間、少し微妙な顔をしている。 あぁ、そうか。今前髪も上げているし眼鏡もとっているから、会長にバレてしまったのか。 「君たちも無事で良かった。的確な避難、さすが我が学園の生徒会だ」 「…もったいないお言葉です」 「…で、そこの坊主はいつまで黙っているつもりだ?」 先程から喋らずいたトーカが、鋭い視線を副会長に飛ばす。 副会長は、切迫した表情で何かを言おうとしてまた口を閉じる。 その様子を見て焦れたトーカが立ち上がり、副会長の前まで歩いていく。座っていたとしても威圧感のすごいトーカに見下ろされては恐怖だろう。俺は絶対嫌だ。 トーカの表情を俺から確認することはできない。 「……話します」 緊張を纏った声で、彼は彼の真実を話し始めた。

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