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男とはいつまで経っても中身が子供
二刀流の動きをマトーとともに研究し始めたと、ツヅラから聞いた。
『あんだけ毎日通ってたくせになんで会いに行かないんですか?俺の方が会いに行ってません?』と壁に穴を開けてしまうほどツヅラの顔を思い出し、腹が立つ。俺はただ仕事が忙しいからガキの世話なんてしてられないだけなのに、うるさいヤツだ。
執務室で書類整理をしていると、随分と控えめなノックが扉から聞こえた。ツヅラだったらノックの意味を為さない程にノック直後に入ってくる。
「入れ」
他の師団長らか、隊員だろうと見当をつけ入室の許可を出す。
最近になって、国が従来の『騎士制度』を廃止し、王族私有の『自警団』が設立された。実際はなにも変わらないはずではあるが、こうしたデスクワークとして処理するものが増え、これもまた俺の機嫌を損ねる要因となっていた。
書類から顔を上げずに、「要件は何だ。手短に済ませろ忙しい」と言うも、なかなか相手から応答がない。
誰だコイツ、と顔を上げる。そこにいたのは予想外の人物だった。
「……忙しいなら、また今度来ます」
俺がたった今考えていた子供だった。すぐにこちらに背を向けて帰ろうとする子供に「おいガキ、待て」と引き留める。
ピタリと動きを止めた子供に、「なんの用だ」と再度聞き返した。
「…アンタが、俺の武器を送ってくれたって聞きました」
小さく舌打ちをする。
「誰から聞いた?」
そう聞くと、「ツヅラさん」と返ってきた。あの男には口留めをしたはずなのに、口が軽い男め。今度会ったら俺のこの書類の山をひとつ分けてやろう。
「……ただ感謝を伝えたかっただけなので、これで失礼します」
随分とませた野郎だ。ペコリと一礼した姿を見て思わず目を細める。
「お前、世界を見たくねえか」
顔を上げ、質問の意図を汲み取ろうとする子供。もっと素直に考えればいいのに、生きづらそうな子供だ。こちらの意図が測りかねたのか、なにも答えない子供にもう一度尋ねる。
「行きてえのか、行きたくねえのか。その二択だ。なにも難しい質問じゃねえだろ」
子供は少し考える素振りを見せ、やがて口を開いた。
「…世界っていうのは、この世界ってことですよね」
今度はこちらが考える番だった。目の前にいる子供にとって、世界が複数あるということだろうか?
やはり、子供の考えることはわからない。
「…すみません、変なことを言いました。忘れてください」
「お前いくつだ?」
「12です」
その数字に吃驚する。7、8ほどの年齢だと思っていたのだ。
この国では珍しい黒髪に黒目。幼児に見間違えるほどの華奢な身体つき。反対に身体にバネを持っているのかのような運動神経。
思わず、口角が上がる。
「お前明日から俺と来い」
ハテナを浮かべた子供にさらに言葉を重ねる。
「お前におもしれえモン、たーっぷり見せてやんよ」
「はあ…」
「俺がお前を仕込んでやる。いいな」
わかりました、と言うもののその言葉尻にはまだハテナが存在している。
俺がこれ以上なにも言及しないと判断した子供は、こちらに背を向けドアノブに手をかけた。
その背中に向かって「荷物は少なくしろよ」と声を掛ける。最後に見えた表情は困惑そのもので、すぐに扉の向こうに消えていった。
明日から楽しくなりそうだ。この後すぐに「どういうつもり!?」と怒鳴りこんできたマトーに対しても俺は珍しく上機嫌に対応した。
「どういうつもりもなにも、そのままだ。俺がアイツに世界を見せてやる」
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