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最終回は突然に

 今年の実戦授業は結局優勝も決まることは無く、終わったと聞いた。軍事学校にはいつも通りの日常が戻ってきている。いつも通り、授業を受け、シノとクロとノアと昼飯を食べる。  そういつも通り、いつも通りのはずなのに俺の周囲を囲うこの緊張感が消えない。例えるならば、ずっと誰かに見られている気がするのだ。クラスメイトにも、落ち着きがないと言われる始末でどうしようもない。俺の事情を知っているシノ達には緊張が抜けていないんじゃねえの、と言われたけれど、それに納得できる自分とできない自分がいるのだ。  ソワソワして堪らない。    やはりこの誰かに見られている気がして仕方がない。見られているだけではなく、聞き耳をたてられているというか、とにかく気持ちが悪いのだ。  耐え切れなかった。授業を抜け出して、人に見つからないように廊下を歩く。ふと、中庭が気になった。先ほどまで長く感じていた廊下が途端に短く感じる。何かを閉鎖しているような空間に惹かれて堪らない。  セツカが占拠をしているため、やはり中庭には人がいなかった。珍しいことにセツカもいなかった。あの生徒会室での一件で、どうにもセツカと会いづらかったため少し安堵した自分がいるのが正直なところだ。  ふと中庭のとある一角が目についた。なにもないとわかっているのに、どうしてもそこが気になるのだ。ゆっくりと近づいていく。図られたように置いてあるスコップを手にとって、その場所を掘る。  土は粉雪のように軽く、簡単に掘り進めていくことができる。それが何かの使命のように感じて仕方が無い。収まっていたはずの背中が熱い。それも、痛みではなく快楽だ。 「ッ…んは、…」 吐き出す息すら、熱くて堪らない。  身体の芯を溶かしていくようなドロリとした快楽が、血液を循環している。関節という関節から力が抜けてそこに倒れ込んでしまいそうなのに、俺の身体は掘ることをやめない。 コツッ  かなり掘り進めたところで、スコップの先が固いもの当たった。高揚感が喉元まで上昇した。そうだ、ずっとこれを探していた。  スコップを放り投げ、顔をだしたソレに手を掛ける。 『オイ、クソガキ!てめえ授業サボってなにしてやがる!』 「っ、え、トーカ…?」  ソレに手を掛けた瞬間、耳につけた無線カフスからトーカの怒鳴り声が聞こえる。普段聞くことはないトーカの切羽詰まったような声に、思わず心臓が縮みそうになった。 『お前、今どこにいやがる!?』 「どこって…中庭だけど…」 『クソッ遅かったか…お前すぐそこから』 突然トーカの声がブツブツと切れ始め、何を言っているのかわからない。ニイロさんが作ったものだからどれだけ遠く離れていても鮮明に相手の声が聞こえるようなシロモノであるはずなのに。故障だろうか。 「トーカ?おーい」 『お…ガ…げろ…』 何かを言っているのはわかる。足がその場で根を張ったように動かない。 「…トーカ?」 『シキ…!』 耳の神経を刺激するように、俺の名前を呼ぶトーカの声が刺さる。一気に酸素が肺に入り込んできて、俺は今までずっと息苦しかったのだと気付いた。 「もう遅いよ」 「え」 知らない声と、止まる風。  つぷん。背中の熱さが消えていた。

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