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第13話

「もし、さ」 「うん?」 一度こっちに振り返ったソイツは少し迷ったような顔で慎重に言葉を選ぶ。 ソイツからの言葉をじっと待つその少しの時間がもっと長くなればいいのに。 「もし、また何処かで逢えたりしたら」 「二度と逢わないんじゃないの?」 「うん、だからもし、偶然逢えたら」 名前も住んでる場所も何も知らない同士。 知ってるのは、αとΩという性と、運命の番であること。 「その時は運命だと思って、名前教えてあげるよ」 ヤバい、と思った。 恥ずかしそうに笑ったソイツに胸が高鳴った。 これは運命だからなんかじゃない。 これは……。 車から出て行くソイツを引き止めようと出し掛けた手を握りしめた。 ソイツが降りて、バタンと閉まるドア。 やがてソイツが人並みの中に消えていくのをじっと見ていた。 まだ花の香りが残る車の中で。 もしまた逢えたなら、オレはきっとアイツを離さないだろう。 一から口説き落としてやる。 何も知らない者同士。 逢える確率はゼロに近い。 だからって無理矢理探し出そうとは思わない。 オレには確信があったから。 大丈夫。何も知らなくてもオレ達はまた逢える。 また必ず巡り逢える。 それがどんなに遠い未来でも。

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