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プロローグ

もうだめだ。 僕の言葉も、アイツの言葉も、互いの心に届かない。 見つめ合っているのに、確かに瞳は相手を捉えているのに、視線が微妙に絡まない。 『別れよう』 そう言ったのは、アイツだったのか。それとも、僕だったのか。 それすら、どうでもいい事のように思えた。 でも、出した結論は2人とも同じだった。 それから話し合った内容は、部屋にある持ち物をどうわけるとか、アパートの契約内容の変更をどうするとか、そういった至極事務的なもの。 淡々と進む冷えた会話に、本当に終わったんだと自覚していく。 嵐が去ったような、晴れやかな気持ちが確かに胸の中にあるはずなのに。 心にわいた寂寥感を止められない。 それは、アイツを失ったからというよりは、今まで『日常』としていた日々がなくなってしまうからなのかもしれない。 でも── 壊れた絆は元に戻らないから。 だから……。 新しい日常を、僕は手に入れないといけない。

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