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第1話
誰にだって若気の至りはあるものだ。
やんちゃな自分を許した瞬間や、ほんの少し世間や家族に対して反抗的な気分になった時や、下半身が脳みそを超えてしまった時など。
そんな儚い夢のような一瞬に、いつまでも責められるなんて、そんなのは犯してはいけない一線を犯してしまった時だけで充分だと、海津湊は声を大にして言いたい。
そんな泡のような一瞬のために、いつまでもこんな夢を見ている、自分に。
いつもの夢の中、湊はああまたかと溜息を吐いた。
あまりにも見すぎて擦り切れた夢は、過去の重さと少しの懐古を伴うが、慣れてしまった今では正直なところもう腹いっぱいだ。我ながら繰り返し己の過去の過ちをほじくり返すマゾっ気にうんざりする。
夢を夢と認識しているのに目を覚ませず、ただ空気のように意識を挟み込むしかない湊の前で、過去の自分が無防備に眼を見開いている。夢のもう一人の登場人物の前で、まるで信じられないとでも言うように。
実際に、この時の事件は湊にとってすぐには信じ難いものだった。現実に起こった出来事に対してもだが、何よりも告げられた言葉に対する己の心の動きが。
この時の湊は逃げた。告げられた言葉から、まっすぐに突き刺してくる視線から、己の腕を掴んだ男の手を振り解いて、その気持ちから脱兎の如く逃げ出した。
どんな覚悟でこの場面を夢に見ることにしたのかと、湊は己の脳を罵倒する。自分は相手の気持ちを踏み躙って逃げ出したのに、謝罪することはおろか、相手の顔を見ることさえも出来なくなっているような臆病者なのに。
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