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第8話トリップ8
小高い丘にある城からは、燃えるような夕焼けを臨むことができた。
アデルの金色の毛並みが同系の光に照らされて、たなびくように輝いていた。その美しさに翔太は思わず息をのむ。
「ここの夕陽を見ていると、己の悩みなどつまらなく思えてくる」
ポツリとアデルが呟く。
今までの翔太だったら、クソな戯言だと鼻で笑っていただろう。だが、アデルの言葉は自らの心にすとんと入ってきて、魂が同調するように揺さぶられる。
特に、城へ来てから自分のペースが掴めない。
心が自分のものじゃないみたいに穏やかだ。
「あんたは王子だから、悩みが沢山あるんだ。大変だけどやり甲斐はあるだろうし、国民のために頑張らないと。俺は何にもできないから、人の役に立つって羨ましいよ」
「そうなのか」
「そうだよ。いつも気を張ってて、しんどいだろう。時々は、俺みたいな能天気と話すのもいいかと……思う。俺は、寝てる時以外は暇だからな」
「寝てばかりではないか」
「病気だからしょうがないの」
翔太は間接的に、いつでも待っているよ、と伝えてしまったことを後悔した。
深入りせずに、のらりくらりと暮らしていた筈なのに、意味深にアデルを慰めてしまった。
こうして初対面の時こそ喧嘩腰であったが、アデルと翔太は打ち解けてゆく。
小さい時から一緒に居るような錯覚を覚えるまでは時間が掛からなかった。
あまり他人に頼ることのないアデルは、翔太相手だと何でも話すことができた。そもそも王子なんてものを知らないから当然なのだが、王子だからと言われないのが一番楽であった。
王子でなければならないアデルと、獣人でなくてもよい翔太。
運命が二人を手繰り寄せようとしていた。
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