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第89話 僕の過去
僕を抱き寄せた大輝の身体が、微かに震えていた。僕の耳に、彼の小さく詰まるような声が聞こえる。
僕は彼の胸に手を当てて、顔を見上げた。
「大輝…泣いてるの…?」
「…だ、って…燈…っ」
僕に向けられた大輝の顔が、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「ふふ…なんで、大輝がそんなに泣いてるの…。僕の事、気持ち悪くならないの?汚いと思わないの…?」
「おっ、思うわけないだろ!」
僕の目を見てまた涙を零す。
「僕は、生まれてきちゃ駄目なんだって。いらないんだって。でも…蒼は僕が必要だって言ってくれたんだ。だから、僕は蒼さえ傍にいてくれたらそれでいい…。蒼が心も身体も満たしてくれる…」
「俺だってっ、燈が必要だ!俺だって、燈の傍にいたいっ。心も身体も満たしてあげたい…っ」
大輝が手の甲で顔を拭うと、僕の肩を両手で掴んで真正面から僕を見つめる。
僕は、彼の胸に当てていた手を離して下に降ろした。
「蒼が僕に触れて、男の人達にされた事は消えた気がしてたけど、僕の身体が穢された事実は消えたわけじゃないよ…。僕の身体は汚いんだよ…だから…触れちゃ、駄目だよ……」
僕の肩に置かれた大輝の両手を離そうと、彼の腕に手を触れると、ぎゅっと強く抱き締められた。
「俺はっ、汚いなんて思わない。でも燈が汚いと思ってるならそれでもいい。どんな燈だっていい。これからは俺がずっと傍にいて守ってやりたい。俺が幸せな記憶だけを与えてあげたい。巽さんよりももっと、燈を愛して大事にしたい。燈…俺を好きになってよ…。俺を頼って甘えてくれよ…っ」
大輝の言葉に胸が締めつけられ、僕の目尻から涙が零れ落ちた。
「大輝のこと…好きだよ…。蒼のことも好き…。でも僕は、それがどういう気持ちなのかわからないんだ。どうしたらいいかも、わからないんだ…」
「いいよ…どんな好きでも…。少しずつ、俺と同じ好きになってくれると嬉しい。俺はしつこい上に気が長いんだよ。いつまででも待てる」
僕の好きな太陽のような笑顔で、僕を覗き込んでくる。
そうやって大輝は、少しずつ僕の中を照らしていくんだ。
今度は、僕が涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らしていく。
大輝が、髪の毛を拭いていたタオルで、僕の顔をそっと拭いてくれた。拭いても次から次に涙が溢れてきて、大輝が困ったように笑って、目尻に唇を寄せ涙を吸っていく。
そのまま頰に口付け、一度離れて僕を見つめてから、目を伏せて唇を合わせてきた。
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