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第1話

俺は、幼少期から、大抵のことはこなせてきた。 勉強もスポーツも恋愛も、そこそこ上手くいってきた。 逆に言えば、特技といわれることがない。 苦手なことがない分、抜きでているものもなく、将来つきたい仕事も夢もなかった。 だから、とりあえず、自分が持てる学力でギリギリ入れる大学に入学してみた。 予想通り、入学できた。 大学受験ってこんなものかとも思ってしまった。 でも、そこで、俺は運命の出会いとも呼べる、すばらしい人間と出会ってしまった。 長潟教授。 20代で論文を提出し、見事、すごい人に認められて自分の研究室まで持っている。 当の本人はそれを誇りにすることもなく、今日もいそいそと馬車馬のごとく走り回って研究している。 どうせまた、ご飯も食べず、夜も寝ずで、研究に没頭しているんだろうな。 俺が教授に会ったのは、入学してすぐの頃だった。 どの授業を選択するか悩んでいるときに、構内の掲示物で長潟教授の新聞記事を見つけた。 特技のない俺にとって、一つの分野に抜きん出ていた彼が輝かしく思えた。 この人のゼミに入ろうとまで思った。 とりあえず、この教授の授業を受けることにした。 と、まあ、ここまではただの憧れだったのかもしれない。 長潟教授の授業を受けるうちに、憧れは別の感情へとシフトしていった。

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