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第20話

翌日から講義があるなんて、僕はどんな顔をして澤川くんに会えばいいんだろう。 三十路にもなって、10歳も年下の子に気を遣ってしまうなんて…、我ながら情けない。 教室に入り、1番目立つ1番前の席に彼の姿はなかった。 「あれ?澤川くんは欠席かな?」 「さっきの授業のときは居ました」 「そう…、珍しいなぁ」 そういいつつも、心当たりがありすぎて、上ずった声になってしまう。 これは…、避けられたな… あんなに「好き好き」うるさかったのに… そこまで考えてハッとする。 全然、寂しくなんてないし、むしろ、好意なんてちょっと迷惑だったし… 澤川くん、次回は来てくれるのかな… 「教授!!」 「えっ、は、はい!!」 「授業、進めてください」 「あ、ごめん。じゃあ、こないだの続きから入るね」 それから毎日、何をするにしても、澤川くんがちらついてしまって、身が入らなかった。 「なで…、長潟教授~、研究室、もっと掃除しましょう?」 「え?あ、うん…、そのうち」 「もう…、夏樹にまかせっきりだったのが目に見える~」 「ははは、澤川くんはお母さんみたいだったよね」 「そうやって押し付けてたから、嫌になっちゃったんじゃないですか?」 「そうなのかなぁ…」 もちろん、押し付けたりなんかしていないし、あれはほぼ彼の趣味みたいなものだと思う…、けど 僕のことを嫌になった、というのは間違いではない気がする。 僕だって、自分みたいなのとずっと居たくはない。 仕方のないこと。 僕なんかが、普通に友達を作ったり、恋人になったり、出来るわけがないんだ。 澤川くんが優しいから勘違いしかけてた。 今までどおり、一人で研究に没頭して、上の人たちの遊戯に付き合うしかない。

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