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第38話

ハッと起きると、さっきから1時間ほど経過していた。 あー…、もう! 寝なければ、1時間早く帰れたのに… さっきまで滝田教授がいた気がするけど、夢だったのか現実だったのか分からない。 って、そうだ、仕事しなきゃ! 寝起きで緩くなった思考に鞭を打ち、僕は失敗した工程を1からやり直すことにした。 何とか作業を終えて、時計を見ると、夜の11時だった。 なんとか、日付が変わる前に帰宅できそう。 そう思っていると、携帯が震えた。 『起こしてしまったらすみません。雪さん、ちゃんと家帰りましたか?今日はしっかり寝てくださいね』 「もしかして…、澤川くん、どこかで監視してるのかな…」 と、思わず呟いてしまった。 『大丈夫。ちゃんと帰宅出来そう。澤川くんこそ、早く寝なね』 そう返すと、返事はなかったので、たぶん澤川くん寝ちゃったんだろうな。 さて、僕も早く戸締りして帰ろう。 家についてすぐに、荷物の確認をする。 確認をしたところまでは覚えていた。 気づけば、僕はかばんに顔を突っ込んだまま、眠ってしまっていた。 ムクリと顔を上げると、窓の外は明るかった。 「え、うそっ!?今何時!?」 慌てて時計を見ると、奇跡的に起きる予定の時間だった。 相当、体に負担がかかってたんだな… 最近、よく寝落ちしちゃうし…、歳かなぁ… そこから支度の続きをして、待ち合わせの駅に着いたのは約束の5分前だった。 澤川くんはもう着いていたみたいで、見つけることはできたんだけど… なんかスカウトされてて、近づけない。 中年くらいのスーツを着た男性が、名刺を渡そうとしながら、しきりに話しかけてる。 澤川くんは、人当たりの良さそうな笑顔で断ってるけど… 邪魔するのは気が引けるな… 終わるまで、どこかで待ってようかな? そう思って、ベンチを探していると、腕を引っ張られた。 「雪さん!」 「わぁ!?びっくりした…、もう終わったの?」 「終わったって…、ああ、みてたんですか?」 「うん」 「声かけてくれれば良かったのに…、なかなかしつこくて困ってたんですけど」 澤川くんがムッとした顔をする。 「ごめん…、なんか僕が邪魔するのも悪いかなって」 「俺、芸能界とか興味ないです。研究職に就きたいって言いました。それに、早く雪さんに会いたかったのに」 「ふふっ、ごめんね。次からは声かけるね」 「はい!」 そういうと、むくれた顔がパァッと明るくなった。 澤川くんはあまり感情的ではないけれど、表情がかなりわかり安いことに最近気づいた。 「じゃあ、行こうか。電車出るまであと10分ちょっとしかないし」 「そうですね!」 お盆ということもあり、電車は結構ぎゅうぎゅうだったけど、これから楽しいところに出かけるんだって顔をした人たちが沢山いて、僕までワクワクしてきた。

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