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第37話
8/1、夏休みに入ってすぐに、澤川くんからメールがきていた。
お盆に行きたいところを考えていてくれたらしい。
車で1時間くらいの、海が綺麗な避暑地として有名な観光スポットだった。
『分かった。そんな近場でいいの?遠慮してない?』
少し考えて、そう送ると、すぐにまた連絡が来た。
『近いですか?俺の地元、海ないんで、ずっと行きたかったんですけど…、雪さんが嫌なら別のところ考えます』
『全然嫌じゃないよ!澤川くんが遠慮してると思ってたから…。このあたりで宿、予約しておくね』
『遠慮なんかしてないです!宜しくお願いします!』
そっか…、澤川くんの地元、内陸のほうなのかな…
何県かちゃんと聞いておこう。
よく考えたら、僕はあまり澤川くんのこと、知らないのかも…
今更ながら、僕がいかに恋愛だったり、人付き合いに疎いかを思い知らされてる。
今のうちに旅館の予約しておこう。
予約取れなくなると困るし、最近忘れっぽいし…
ネットで人気の高い旅館に片っ端から電話してみたけど、取れたのは4~5件目のところだった。
本当は1番良いところが良かったけど、予約ができただけマシかな…
年甲斐もなく、ちょっと、いやかなりワクワクしている。
そして、旅行中にちゃんとこないだの誤解を解いておかないと。
やることは、まだまだ沢山ある。
それから、8/14まで、僕は1回も澤川くんに会わなかった。
たまにメールやチャットは来ていたけど、どれもちゃんと返していない。
とにかく14・15日に休みが取れるように、僕は全てを前倒しにして東奔西走していた。
13日の朝、『いよいよ明日ですね。楽しみにしてます。雪さん、今日も実験頑張ってください』というメールがきていて、思わず頬が緩む。
澤川くんは僕に「可愛い」とよく言うけれど、彼だって可愛いところがある。
よし、なんとしても今日中に15日までの仕事をやりきるぞ…
そう息を巻いて取り掛かったけど…
失敗続きでなかなか進行しなかった。
11日からお盆休みだから、生徒はいないけど、生徒がいたとしたらこんな姿は見せられない…
やる気が削がれた僕は、机に突っ伏してボーっとする。
ここ数日の徹夜も祟って、自然と瞼が下りてくる。
寝ちゃだめだ…、今日中に終わらせなきゃ…
でも、今日も徹夜して、明日の移動中に寝るのもアリ?
車出そうか?という僕の提案を蹴り、電車を勧めてくれた澤川くんに感謝しなきゃ…
ああ…、ねむ…い…
「雪?」
「ほえ?あ、滝田教授ぅ…」
眠気であまり回らない頭と呂律。
「全く、君の無防備さに、彼が可哀想になるよ」
「かれ?」
「澤川くんと言ったかな?」
「あー、澤川くんと明日はデートなんれす」
「そうか…、珍しいこともあるものだな。私とは行ってくれなかったのに」
「澤川くんはぁ、特別なんれす…、ふぁあ…」
「だいぶ眠そうだね。そうだ、彼にとっておきのプレゼントをあげよう」
「ぷれぇ…、…」
「おや、眠ってしまった。これは好都合。ちょっと失礼して」
完全に眠りきった僕の首に、滝田教授が赤い花を咲かせたことなど、知る由もなかった。
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