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第36話
それから、夏休みに入るまで2回ほど講義があったが、澤川くんは授業を受けるとさっと帰ってしまって、全然話が出来なかった。
僕からアクションを起こさなければ、2ヶ月は彼に会えないであろう…
ヘタレな僕は、会えなくてもまあしょうがないと言っているが、それでも、澤川くんと過ごしたい。
意を決してチャットアプリを開く。
『澤川くん、こないだはごめん。ちょっと前に話した、僕がお盆期間中に休みを取って、澤川くんとお出かけするって約束、まだ間に合うかな?14・15日、2日連続で空いてるんだけど』
…、いや、ちょっと丸投げにしすぎかな?
もっと、こう…、OKの返事をしやすいやつで…
『14・15日、空いてるんだけど、海とかどうかな?』
いや、ナンパすぎる、これは…
『14・15日、泊りがけで出かけたいって思ってるんだけど…』
泊りってハードル高かったかな?
えっと、じゃあ…
「あ、長潟教授!」
「ファッ!?」
突然声をかけられて、僕は思わず送信してしまった。
しかも、お泊り強要ver.
「え?きょ、教授?」
「あ、ああ、あっ、間違えて送っちゃった」
「へ?あ、このアプリ、送信取り消しできますよ?」
「う、うそ!?教えてくださ…」
「でも、既読、ついちゃってますけど?」
「あ…」
引くに引けない。
返事を見るのが怖くて、僕は画面を閉じた。
「ごめんね、で、何か用事?」
「あ、忘れてた。あの、この文献なんですけど…」
それから、研究室の生徒たちの質問に答えたりしているうちに、チャットのことは忘れてしまっていた。
21時をすぎ、そろそろ出ないと警備員さんに迷惑かけちゃうなと思い、帰り支度をしていると、ふと昼間に送ったチャットを思い出した。
返事、きてるかな…
恐る恐る開くと、
『雪さん、覚えててくれたの、めちゃくちゃ嬉しいです。手が空いたら、電話して欲しいです。』
という返事が来ていた。
日付が変わる前に気づいて良かった…
これからは、こういうこともあるといけないから、ちゃんとチェックしよう。
そう思いつつ、通話ボタンをタップし、発信した。
帰り道を歩きながら、コール音を聞く。
「はい!」
「うわっ、びっくりした。もしもし、長潟です」
「ごめんなさい…、ずっと待ってたから嬉しくて、つい…」
携帯の前で着信をじっと待つ澤川くんの姿を想像して笑ってしまった。
「そっか…、澤川くんってやっぱり犬っぽいよね」
「犬…」
「忠犬」
「う、あっ、ありがとうございます?」
「それで…、お盆のことなんだけど…」
「あ!ありがとうございました。俺、すっげー嬉しかったです!しかも、2日間も雪さんを独り占めできるなんて感激です」
「お、大げさだな…、もう8月になっちゃうし、ギリギリだとあんまり有名なところは予約できないかもしれないけど、行きたい所考えてて欲しいな」
「行きたいところ?」
「え?うん。特にない?」
「それは遠出ってことですか!?」
「まあ、近くてもいいけど」
「俺、てっきり、いつでも大学いけるように雪さんの家に泊まる気でいました」
「いやいや!さすがにそれはないよ…」
澤川くんの中で、僕がどれほど実験優先で生きてきたかを再認識させられた。
こういうところも、ちゃんと直さなきゃな…
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