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第1話(Ⅰ.傲慢兄貴との再開)
Ⅰ
やわらかな温もりに包まれて純 は気持ち良さそうに布団を引き寄せた。
「じゅーん」
恋人──正和 の声が降ってくると、純は僅かに眉を顰 めて彼の腕の中に潜り込む。
「早く起きないと遅刻するよ」
「んー」
「もう。朝ご飯できるまでに下りてこなかったら仕置きだからね」
そう言って心地良い温もりは出て行き、純は布団の中でもぞもぞと丸まって、「ん~」と小さく声をあげる。
二度寝しそうだったが、仕置きという言葉に次第に頭が覚醒してきて、純は大きな欠伸をしながら上体を少しだけ起こした。
瞼を開けると、正和とお揃いの指輪が視界に映って、思わずまじまじとそれを見つめてしまう。もう何度も見ているのに、見る度に幸せな気持ちになって、今日もだらしなく頬が緩んだ。
新学期も始まって一週間。春休みに国外で結婚式を挙げた二人は、今までにないほど穏やかな日々を過ごしていた。
「──いってらっしゃい」
ちゅっ、と唇にキスを落とされて、純は頬をカァァと赤くする。出かける前のこのキスも帰国してからは毎日するようになったけど、一週間経った今でもまだまだ慣れなくて胸がドキドキしてしまう。
「いって、きます」
赤くなった顔を隠すように俯いて、正和が作ってくれた弁当を鞄に入れて家を出る。扉を閉める直前にチラッと彼を見上げれば、彼はにこりと微笑んで送り出してくれた。
照れくさいけれど、こんな些細なことが凄く幸せで、毎日がとても充実している。純は緩みかけた頬を叱咤するように引き締めて、拓人との待ち合わせ場所に急いだ。
なんだか本当に新婚さんみたいだな、なんて思ったけれど、これを正和に言ったら「何言ってるの? 新婚さんでしょ」と当然のように返されるに違いない。彼がどんな顔で返事をしてくるのかまで想像できてしまって、純は再び緩みそうになった頬を唇を噛んで引き締めた。
いつもの交差点が見えてくると、親友の拓人 がちょうど信号待ちをしている所だったので、後ろから軽く駆け寄って声をかける。
「おはよー」
「おう、おはよ。なあ、勇樹 の話聞いた?」
「え、何? 聞いてない」
「あいつ彼女できたんだって」
「えー、ほんと? 何校?」
「橘高等学園 だって。同中の友達がそこ行ってて紹介してもらったんだと」
「へえ~」
「共学はいいよなあ」
拓人はそう言って唇を尖らせるが、さほど羨んでいる様子ではなかった。
教室に着くと、早速いつものメンバーでその話題になる。笠原 は「ずるい、ずるい」とブーイングしていたが、彼女の写真を見せてもらうや否や大人しくなった。
純も写真を見せてもらったが、お世辞にも可愛いとは言えなくて、写真から垣間見える柔らかな雰囲気をとって「優しそうだね」と感想を漏らした。
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