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第37話
* * *
正和が運転する車の後部座席に座った純は、大きな欠伸をしてドアに寄りかかる。
「寝てても良いよ」
バックミラー越しに見える位置でもないのに、どうやら純が欠伸したことに気付いたらしい正和は、微笑しながら優しく声をかけてくれた。
「ん、大丈夫」
そんな彼に軽く返事をして、スマホに届いてたメッセージを返す。
しばらくすると経由地の拓人の家の前で車が停まった。正和は車を降りて、待っていた拓人に軽く挨拶し、リモコンキーでトランクを開ける。
「おはよー」
寄りかかっている方と反対側の正和がたった今開けたドアの方へ挨拶すれば、元気そうな声が返ってくる。
「おう、おはよう。眠そうだな」
「まあね」
返答した通り、眠気で頭が回らなくて、正和が荷物を受け取ろうと手を差し出す様子を、どこか他人ごとのようにぼーっと眺める。
「荷物預かるよ」
「あ、ありがとうございます」
「後ろ乗って」
そう言いながら、正和は荷物をトランクに詰めて、運転席へ戻る。
「すみません、俺まで乗せてもらっちゃって。失礼します」
拓人は遠慮がちに車内に乗り込むと、そっと純の隣の席に座って、シートベルトを締める。
「構わないよ。よく眠れた?」
「ばっちりです」
「それは良かった。純は旅行が楽しみで眠れなかったみたいだから」
彼はそう言ってくすりと笑うと車を発進させる。
「そういうわけじゃ……っ」
「あ、でも分かる気がする。俺は演劇の舞台前とかそうだったわ。最近は慣れたけど」
拓人はそう言って楽しそうに笑う。
昨晩は兄と話して色々考えていたせいで眠れなかったのだが、純の目のクマを勘違いした正和がからかってくる。だが、わざわざ否定するのも野暮だし、純もそのまま会話に乗ることにした。
「勇樹とか睡眠不足通り越して徹夜してそう」
「それありえる。飛行機でトランプするとか言ってたけど寝てそう」
そんな他愛のない話をしながら、たまに正和も会話に参加している内に、目的地の空港に辿り着く。
早朝彼が迎えに来てくれた時は兄が少し不機嫌で困ったけれど、寝不足気味の体で移動は大変だから、送ってもらえたのは有り難い。
「場所は分かるよね?」
「うーん、たぶん?」
「えー……」
正和の問いに首を傾げれば、途端に彼は不安そうな顔になる。
少しだけ方向音痴の気がある純は、慣れない所に行くと道を間違えることがたまにあるのだ。それを心配しているのだろう。
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