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第14話
◇◇
柔らかな陽の中。
アルバートは微睡みながら、隣に寝転ぶリオルに視線を移す。
艶やかに輝く銀色の毛。サファイア色の瞳。
大きな体躯。何を取っても、アルバートとは全く違う身体。
けれど今のアルバートにはむしろそれが、愛おしく思えた。
「…なあ、リオル」
「ん…?」
「前に俺が『獣人と人間のどちらが生き延びるべきか』っていう質問したとき、アンタ自分で考えろって言ったよな」
リオルは、そういえば、と思い出すように青い空を見上げる。
アルバートはその横顔を眺めながら、言葉を続ける。
「だから、ずっと考えてたんだ。…どっちがより悪者で、どっちが滅びるべきか。でも俺、やっと気付いた」
その先を促すように、リオルの視線がアルバートへと移る。
アルバートの視線が、リオルの瞳とぶつかる。
アルバートの顔に、自然と笑みが浮かんだ。
「どちらも違うけれど、どちらもいい部分を持ってる。どっちかが消える必要なんて、ないんだ。どっちが悪者なんて、決める必要ない。お互いのいい部分は認め合って、悪い部分は無くしていけば、それでいい」
アルバートの言葉に、リオルはぱちぱちと目を瞬かせ、それから目を細めて、柔らかく微笑んだ。
「……私も、そう思うよ」
ーー人類と獣人のいがみ合いがなくなるのは、いつになるか見当もつかない。
十年後かもしれないし、一年後かもしれない。はたまた、一週間後かもしれない。
けれどいつか絶対に終わらせられると、アルバートは信じている。
リオルと過ごした日々の中で、気付いたのだ。人を憎む心は、時間がかかったとしても、必ずなくすことの出来るものであること。
憎しみは、愛情と表裏一体。憎しみの裏には必ず、愛情が潜んでいるのだ。
「…眠そうだな」
「うん、眠ぃ。寝ていい?」
アルバートはリオルの返事も聞かず、その膝の上にごろりと頭を置いて寝転がる。
途端に、かあ、っと頰を染めるリオルに、くすりとアルバートは笑う。
「あー、リオル顔真っ赤」
「し、っ仕方ないだろう、こういうのには慣れていないんだ…」
「意外とウブなんだ、かわいー」
けらけらと笑いながら、アルバートは上半身を軽く持ち上げ、その頰に唇を押し当てた。
「…でも俺、そういうところも好き」
「っ、やめてくれ、心臓に悪い…」
リオルの手が、楽しそうに笑ったアルバートの髪を撫でる。
ーーどこか懐かしくて、心地よい時間。もう、寂しくはない。自分は孤独ではなくなったから。
リオルの温もりを感じながら、アルバートはかすかに笑んで、そっと目を閉じた。
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