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第1話
彼の名は怪傑ばななマン。
プロフィールは非公開だが、愛と正義の味方だ。日本全国をカバーする高性能レーダがSOSを感知すると、どこからともなく現れて、もつれ返った運命の赤い糸を解きほぐしてくれる。
AくんとBくんの仲を取り持つキューピッドそれが、ばななマンなのだ。
東にひどいフラれ方をした青年がいれば、ピストン運動であえがせながら愚痴を聞いてやり。
西に素敵な初体験を夢見る少年がいれば、メスイキを会得するまでコーチしてやり。
北に老いらくの恋に胸を焦がす紳士がいれば、想い人はフケ専だと発破をかけてやり。
南に倦怠期のカップルがいれば、マンネリ打破にリバの醍醐味を味わわせてやり。
さて、今宵も迷える仔羊のもとへ──。
◇◆◇
心が浮き立ち、タマ袋の皺も伸びるような、木の芽時のある夜のこと。都会の片隅で、こんな光景が繰り広げられていた。
「にいちゃん、愛している、にいちゃん!」
「藪から棒に、なんのウケ狙い? それより肩を揉んでほしいな、お駄賃をあげるから」
「肩よりカタカナの〝ペ〟で始まる伸縮自在で筒状のものを揉みたい……違くて、マジメな話。にいちゃんは風呂あがりにスッポンポンでうろちょろしたり、俺の膝枕でうたた寝したり、やたらとハグしたがるだろ。煽られて惑わされて恋の打ち上げ花火が、どっかーん! なんだ」
などと、ハッシュタグ腐女子とあるような会話を交わす彼らは桐原 兄弟という。兄の真輝 は某メーカー勤務の二十六歳、弟の昴 はこの春に新社会人となる二十二歳。
BLの慣例に従い、綺麗系と爽やか系のイケメン兄弟だ。ただし、詳細なデータはストーリー展開に関係ないので省略する。
両親と早くに死に別れ、親戚の間を別々にたらい回しにされて育った桐原兄弟にとっては、互いの存在だけが心のよりどころだった。
真輝が就職した数年前に念願のふたり暮らしをはじめて──うんぬんかんぬん。というエピソードも枚数の都合上、割愛する。
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