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第2話

 いちど状況を整理してみよう。  弟が兄に懸想して、片思いをこじらせたあげく、熱情が迸るに至った。要するにブラザーコンプレックスが高じた結果、恋情が芽生えてしまったの、というベタなパターンだ。  桐原弟の友人談──昴がいつか兄貴を押し倒すってのは仲間内じゃ定番のネタで、マジにやらかしてもあんま驚かないっすね。  事の経緯は、ざっとこんな感じだ。ここで物語は大きく動く。    好きだ愛している、冗談はヨシコさん。気持ちに温度差があるというか、すったもんだやっているさなか、掃き出し窓のすぐ外で高笑いが響いた。  ここはアパートの二階だ。ベランダに誰かいるのか?  桐原兄弟は顔を見合わせ、にらめっこに負けた真輝が、恐る恐る、且つ細めにカーテンを開けてみた。  すると、折しも物干し竿におでこをぶつけた男が、一転して優雅にお辞儀をしてのけた。  本作品は「やおい」である。努々(ゆめゆめ)、ご都合主義とツッコむことなかれ。  真輝は後ずさった。一一〇番、とスマートフォンを取りにいきかけたものの、クレセント錠を外す仕種につられて、そうした。 「間違えた。怪しいやつをお招きして、おれのドジ、バカちん」 「ソッコー撃退するから安心しろよ。にいちゃんは俺が護る」    と、パニクる桐原兄弟を尻目に、軽快なテーマ音楽に乗って颯爽と登場した男は、 「ばななマン、見参。愛のお悩み迅速解決、幸福をもたらすのが、わたしの使命だ」    サテン地の黄色いタキシードを身にまとい、右手(めで)にバナナ型のバイブレータ、弓手(ゆんで)にコンドームをひとつづり。  見よ、この華やかないでたちが、ばななマンの勝負服だ。  真輝は思った。新手のチンドン屋かも、と。  昴は思った。救世主が現れた、と。 「事情はカクカクシカジカであるな。桐原兄よ、近親相姦はタブーだなどと常識にしばられて食わず嫌いを決め込むのは愚の骨頂である。ついては桐原弟よ、そなたに兄とラブラブになるにふさわしい資質が(そな)わっているかをテストする」

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