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冷流
「あんたに祝われて喜ぶと思ってんのか?」
三歳 はつい先ほど、友人に言われた言葉を思い出す。今日は幼なじみの誕生日だ。毎年、この日は一緒にお祝いをしていた。
しかし今年は違ったのだ。今年のはじめから、幼なじみと仲のいい友人が付き合いはじめた。
今朝もいつも通り、誕生日を祝おうと、ひとり暮らしの幼なじみの家に行ったら、そこには既に友人がいた。
「あ、薫 、来てたんだ!僕も聖夜 のこと祝おうと思ってさ~!」
三歳がそういうと、友人の薫は訝しげに顔を歪めた。そして三歳を追い返そうとしたのだ。
恋人との時間を優先させろ。
そう主張する薫と言い合った挙げ句、ついに薫が三歳にむかって言った。
「あんたに祝われて喜ぶと思ってんのか?」
聖夜の真意など、わかるはずもなかった。
三歳は、聖夜と薫が付き合いはじめてから、聖夜とろくに会っていなかった。それまではなんだかんだと会っていたのに、会おうとする度に「今は薫といるから」とやんわり断られていた。
それでも決して、関係が悪くなった訳ではないと、三歳は考えていた。だからこそ、誕生日を祝おうと聖夜の家にむかったのだが、聖夜は違ったのだろうか。
聖夜は三歳から誕生日を祝われることなど、望んでいないのだろうか。
そう考えると、三歳は急に不安になった。
聖夜の隣を自分の居場所のように感じていた三歳は、聖夜に望まれないことがひどくショックだったのだ。
結局、今日も聖夜と顔を会わせないまま、玄関先で薫に追い返されて帰路につく。三歳はその帰り道に、聖夜のためにと用意していたプレゼントを投げ捨てようと、流れのはやい大きい川にかけられた橋の上で立ち止まる。
虚しかった。
必要とされないことか、幼なじみよりも恋人を優先され続けていることか、自分ひとりが取り残されたように感じるからか、何故かは分からないが、三歳はただただやるせなく、立っていることすら辛くて仕方なかった。
三歳は橋の上から濁った水の流れを見つめ続ける。急流はとめどなく続き、果てもなく進む。
飛び込めばどうなるんだろうか。
三歳は、闇と冷流の引力に逆らわずぐっと欄干から身を乗り出した。
そのとき、
誰かが三歳の右腕を後ろからぐっと引いた。
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