1 / 12

冷流

「あんたに祝われて喜ぶと思ってんのか?」 三歳(みとせ)はつい先ほど、友人に言われた言葉を思い出す。今日は幼なじみの誕生日だ。毎年、この日は一緒にお祝いをしていた。 しかし今年は違ったのだ。今年のはじめから、幼なじみと仲のいい友人が付き合いはじめた。 今朝もいつも通り、誕生日を祝おうと、ひとり暮らしの幼なじみの家に行ったら、そこには既に友人がいた。 「あ、(かおる)、来てたんだ!僕も聖夜(せいや)のこと祝おうと思ってさ~!」 三歳がそういうと、友人の薫は訝しげに顔を歪めた。そして三歳を追い返そうとしたのだ。 恋人との時間を優先させろ。 そう主張する薫と言い合った挙げ句、ついに薫が三歳にむかって言った。 「あんたに祝われて喜ぶと思ってんのか?」 聖夜の真意など、わかるはずもなかった。 三歳は、聖夜と薫が付き合いはじめてから、聖夜とろくに会っていなかった。それまではなんだかんだと会っていたのに、会おうとする度に「今は薫といるから」とやんわり断られていた。 それでも決して、関係が悪くなった訳ではないと、三歳は考えていた。だからこそ、誕生日を祝おうと聖夜の家にむかったのだが、聖夜は違ったのだろうか。 聖夜は三歳から誕生日を祝われることなど、望んでいないのだろうか。 そう考えると、三歳は急に不安になった。 聖夜の隣を自分の居場所のように感じていた三歳は、聖夜に望まれないことがひどくショックだったのだ。 結局、今日も聖夜と顔を会わせないまま、玄関先で薫に追い返されて帰路につく。三歳はその帰り道に、聖夜のためにと用意していたプレゼントを投げ捨てようと、流れのはやい大きい川にかけられた橋の上で立ち止まる。 虚しかった。 必要とされないことか、幼なじみよりも恋人を優先され続けていることか、自分ひとりが取り残されたように感じるからか、何故かは分からないが、三歳はただただやるせなく、立っていることすら辛くて仕方なかった。 三歳は橋の上から濁った水の流れを見つめ続ける。急流はとめどなく続き、果てもなく進む。 飛び込めばどうなるんだろうか。 三歳は、闇と冷流の引力に逆らわずぐっと欄干から身を乗り出した。 そのとき、 誰かが三歳の右腕を後ろからぐっと引いた。

ともだちにシェアしよう!