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認識

三歳が振り返ると、そこには目を疑うほどに美しい青年がいた。 「何してんの?」 眉をひそめる青年に、三歳は黙りこくることしか出来なかった。 三歳は自分自身の行動に驚いた。自分はいったい、何をしようとしたのか。川の急流と闇に誘うような濁った色をもう一度見下ろし、ひどい恐ろしさに震えた。動揺が収まらず、その場に塞ぎこむ。 「おい、大丈夫かよ。」 青年は再び三歳の右腕をぐっと掴むと、立ち上がらせるように、自分の胸元へと引き寄せる。 イケメンの顔が急接近し、三歳は真っ赤になって、慌てて距離をとる。 「だ、いじょぶ、です。」 なんとかそれだけ告げて、三歳は走り去った。 見ず知らずだったその青年と再開したのは、それから3日後のことだった。イケメンの青年が三歳のバイト先であるスポーツクラブに、新規入会を希望しに来たのだ。 三歳を見てもあまり反応がなかったため、初めはひょっとして別人なのかもしれないと思った。しかし三歳は、これほどまでのイケメンを見間違えるはずがないと思い直す。 その青年は名を柳下(やなぎした)と言った。 「では、柳下さん、手続きは以上です。 ジムは本日からご利用頂けますよ。」 柳下は相変わらず、三歳のことを認識しているのかしていないのか、わからなかったが、三歳は努めて普段通りに仕事をした。 「どうも」 柳下の返事に三歳はニコリと微笑み返す。やり取りを終えて、すぐに立ち去ると思われた柳下がなかなか立ち去らず、三歳は不思議に思ってその整った顔を見上げる。 「元気になったんだな。」 柳下が唐突に笑みを浮かべ三歳を見下ろす。 柳下に認識されていたことに、嬉しいような、恥ずかしいようなきもちになった三歳は、すぐに目を反らしてうつむいた。 「あ、ありが、とう。」 先ほどまでそつなく話していたというのに、柳下に認識されていたと知ったとたん、三歳は会話もままならくなった。 「うん。そんじゃ、これから宜しく。」 真っ赤な三歳とは対照的に、柳下はスラスラと言葉を紡ぎ、数秒と間を置かず立ち去ってしまった。 それからと言うもの、三歳と柳下は度々スポーツクラブで顔をあわせるようになった。柳下は律儀にも、三歳を見かける度に声をかけ、調子はどうかと訊いてくる。 時が経つにつれ、三歳は柳下に特別な思いを寄せるようになっていった。

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