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らいん~DAUKS~

──退屈だ。  今は、授業中。  学生の本分は勉強ありきというが、退屈なものは退屈なんだから仕方ない。  俺は制服のスラックスのポケットに手を入れる。中にしのばせてあるスマホを起動して、机の中へ移動させてからアプリを開く。  そして、あるIDのトークページを出して、目線を黒板からそらさずに文字を打つ。  画面を見なくても、指でフリックする文言はいつも同じ。  一文字タップすれば、たった4文字の言葉が予測変換で真っ先に出てくる。 『ヤラセロ』  送信ボタンを押して、さりげなくアイツの席をうかがう。  アイツは、退屈のあまり半分寝ていたらしい。着信を知らせる振動に、細い肩がぴくりと動いた。  堂々とスマホを取り出して、ラインを確認している。美麗な眉が、少しだけ不機嫌そうに動いた。  俺はそれを見て、自然と口角が上がるのを止められなかった。  だって、ラインを送信した時のアイツの表情を盗み見るのは、俺の唯一の退屈しのぎだから。 「──では、二十八ページから楠田」 「……はい」 「三行目から読んで、訳してくれ」 「はい」  ──ちっ。  もう少し、アイツの表情を堪能したかったのに。  俺は、立ち上がり教科書を手にして、教師の指示通りに淡々と読み上げていった。   アイツ──吉野のことは、入学式の時から知っている。  顔が、まさに俺の好みだったから、一目で惹かれた。  いや、好みなのは顔だけじゃない。  気が強そうな目線。細い腰。身長のわりには長い手足。  なにもかも申し分ない。  胸の中に芽生えた小さな感情が、だんだんと明らかな欲望へと膨らむのに、時間はかからなかった。  あの綺麗な顔を、快楽で歪ませたい。  生意気そうな瞳が、欲情で潤む様が見たい。  あの細い躰を折れそうなくらいに抱きしめて、中をぐちゃぐちゃに弄りたい。  だけど、これといったきっかけもなく、クラスも違うので、吉野に近づくこともできず、遠くから眺めるだけの月日が過ぎていった。  その間、俺の欲望は萎むことはなく、むしろ美味そうなエサを前におあずけをされた犬の気分を味わうことになり、飢え乾くという言葉を体験するとことになった。  二年生に進級し、俺たちは同じクラスになった。  クラス委員という立場を利用して、声をかけてみたのだが、アイツはいわゆる優等生というのが苦手らしく、せいぜい挨拶をするだけの単なるクラスメートという間柄に陥った。  せっかく同じクラスになったというのに、吉野は必要以上に近づいてこない。  だけど、俺の目の前で美味そうな肢体を惜しげもなく晒して、ヘラヘラ笑って、しかも甘い匂いすら振り撒きやがる。  焦燥感と飢餓感を十分に味わって、ともすれば吉野に襲いかかりそうになった頃。偶然にも教室であいつのスマホを拾った。  起動ボタンを押すと、ロックをしていなかった。  俺はすかさずアプリを開いて、あいつのIDを確認した。そして、自分のIDに友だち登録したあと、そっとアイツの席にスマホを戻しておいた。  その場で、さっそくラインを送る。  打つ文章は、たった四文字。  自分の気持ちに一番正直な言葉。 『ヤラセロ』  これを見た時のアイツの表情(かお) を想像するだけでも、なんだか愉快な気分になる。  俺がアイツにしかける、とっておきのゲーム。  しつこくはしない。だが、イタズラとは思わせない。  少しずつ、じっくりと俺の本気をわからせてやる。 ***** 「なあ……それって、ID盗んだってことだよな?」  吉野が振り返って、俺をキッと睨む。その視線にすら煽られて、俺は激しく欲情する。 「俺は、落ちていたお前のスマホを、お前が困らないようにちゃんと机に入れただけだが」 「でもさ…っ!」 「まあ、ついでにIDを見させてもらったけどな」 「だから、それが盗んだっていって……っ!」 「こんな状態で文句を吐けるとは、余裕だな」  俺は、指をくいっと鉤型に曲げた。 「ひぁっ! ああっ…!」  背を弓形にしならせて、吉野が叫ぶ。俺が指を動かすたびに、いやらしい水音が吉野の尻から聞こえてくる。 「ああん! やだっ……そこぉ…っ!」  吉野の腰が淫らに揺れる。内襞がひくひくと、俺の指を締め付けている。 「ぁっ…楠田ぁ……」 「余計なおしゃべりはやめて、こっちに集中しろ」  俺は指を広げて前後に出し入れした。四つん這いになっていた吉野の腕から力が抜けて、尻だけを突き出したような格好になる。  いい眺めだ。俺の口元が笑みの形を作る。  あのラインを送り続けて数ヶ月。吉野は、俺の手に堕ちた。  最初は『イヤだ』という返事しかこなかったのに、今では必ず『いいよ』と返信してくる。  吉野の躰は、想像以上に魅力的だった。俺の手管に淫らに溶けていく。 「ねぇ…っ! 楠田ぁ……早く……早くきて……っ!」  瞳を潤ませて、腰を揺らめかせて吉野が俺を誘う。俺を欲しがるその唇に舌を差し入れながら、俺は容赦なく自分の欲望の塊で貫いた。 「ん、ん、ふぁっ……いいっ…いいよぉ! 楠田ぁ……」 「吉野、吉野……」  肉のぶつかり合う音。絶妙なタイミングで締め付けてくる肉襞。赤く熟れた乳首。  急速に高まる熱を抑えられない。 「ダメっ…ぁっ…ああっ…もう…」 「もっと、だろ……」  言葉で煽るだけでも、俺をきゅうきゅうと締めつける。もう、手放せない。  堕ちたのは、もしかしなくても俺の方だった。  たぶん、明日も、明後日も俺は吉野にラインする。 『ヤラセロ』と。  そして、アイツの『いいよ』という返事を心待ちにするのだろう。 end. Copyright Notice(C) 葛城えりゅ 初稿: 2006.8.29 改稿: 2015.5.4 fujossy版改稿:2019.03.14

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