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朝はいつもコーヒーを飲んだ
二回目に泊まった朝、
「お前、昨日うるさい」
とキシが真面目な顔で言った。
「えっ」
「寝言、すごい言ってた」
あの時の声がうるさいと言われたのかと思った。キシは僕の顔色を見て、
「そっちのうるさいじゃねえよ」
と、まだ真面目な顔をして言った。
キシはコーヒーメーカーを持っていて、朝はコーヒーを淹れてくれた。いつもテーブルに向かい合わせに座って飲んだ。そんなに美味しくなかったが、彼がマグカップに注いでくれるので嬉しかった。
「なに言ってた?」
「起こしたことは覚えてないのか」
「ごめん、覚えてない」
キシは眉間に皺を寄せて、コーヒーを飲んだ。
「そんなにうるさかった?」
「おお、うるさかった。ちょっとソファーに避難した」
「…」
次は泊まらないで帰ろう、次があったらだが、と心の中で呟いていると、キシはにこっと笑い、
「俺が原因かと思って」
と言った。
「なにが?」
「俺が下手すぎて、後でうなされる」
僕は、ぎゃはは、と笑った。
「やめろよー」
「いやいや。この前は、泣いてたし」
「…あー」
「そんなに下手?」
「ばーか、やめろって」
この前の明け方のことは、覚えていないと思っていた。その後キシが何も言わなかったので。だが、あれから僕のことを考えている時間が少しでもあったという想像で、急に胸がどきどきしてきた。
「朝は夢が、たまに、悪夢で。起きたら自然に泣いていることがあるだけ。キシさんと関係ないから」
と僕は説明した。
「寝言は、ごめん。いつもひどいらしいけど、いつも記憶がない」
キシは頷き、しばらく黙っていたが、ふと目を挙げて、僕が両手で包んでいるマグカップを見ながら、
「付き合ってる奴にも、寝言うるさいって言われてるわけだ」
と言った。
「付き合ってはない」
「ふん」
「元彼。たまに会う」
「ふうん」
「…キシさんは?誰かいるの?」
「…俺は適当だね」
「適当とは」
「テキトーとは、テキトーだよ」
キシは立ち上がり、自分のカップを持ってキッチンに歩いていった。カウンターを回り込み、残っていたコーヒーをシンクに流して、蛇口をひねった。
「うるさいなら、もう泊まらないから」
と言ってしまった。
「…ああ、そー」
キシは、ちらっと僕を見て、カップを洗い始めた。
「お前、帰るの?朝ごはん食べる?」
「…帰る」
キシはカップを洗った後、昨日使った食器を洗った。僕は、うつむいて洗い物をしているキシの前髪が、さらさらと額にかかるのをぼんやりと見ていた。
キシは、洗い物を終えて水を止めると、カウンター越しに僕を見て、
「帰るの?」
と言った。
「うん」
「また泊まりに来て」
僕が黙っていると、
「俺が誘った時に、来て」
と続けて言い、例の睨んでいるのか考えているのかわからない、重い光を湛えた目をした。
キシはカウンターを回り込んで、座っている僕の横に立ち、そっと頭を抱き寄せて、自分の体に押し付けた。
ネイビーのTシャツごしに、キシの体温が頬に伝わった。しばらくそうしていた後に、僕は手を伸ばして、彼のものをスウェットの上から触り、硬くなってくるのを握って、顔を上げる。
キシは欲望で重く沈んだ目を光らせて、僕を見下ろしていた。
形を確かめるように触り、上下に手の平で擦り付けていると、キシがちょっと喘ぐような声を出した。
僕は彼のTシャツをめくり、腹に唇をつけ、舌を出して舐めまわした。体毛がざらついて舌に当たったが、キシの肌はいつも美味しい味がした。
スウェットのゴムに手をかけると、キシは僕を押しのけて、無言のままスウェットを脱ぎ、両足から抜き取った。
下着を履いていなかったので(キシは寝る時、いつもスウェット一枚で、下着をつけなかった)、僕は椅子から滑り降りて、床に膝をつき、彼のものを掴んで、先の方にキスした。キシの体がびくっと反応して、息をのむのがわかった。
僕はまだ完全に勃起していないそれを口の中に入れ、すぐに硬く大きくなってくるのを頬の内側に当ててうっとりと感触を楽しんだ。
根元を指で掴んで口から押し出し、また吸い上げていると、キシは声にならない声で呻いて、両手で僕の頭を抱えるので、咥えたまま見上げて、目が合う。
僕はペニスを口から押し出して、
「気持ちいい?」
と聞いた。キシは何も言わず、いきなり僕の髪をぎゅっと掴んで、喉の奥まで押し込んできた。
「んん」
キシは髪を掴んだまま、僕の頭を前後させ、僕は舌を巻きつけて吸い続けていたが、息苦しくて目に涙が浮かんでくる。
しばらくして、キシが手を離し、僕は目尻に涙が筋を引いてひんやりするのを感じながら、右手でキシのものを掴み、根元を愛撫しながらもう一度口の中に入れた。
続けていると、キシの呼吸が激しくなるのがわかり、
「いきそう」
という声が震えて聞こえた。
「出していい?」
僕は答えないで、手の動きを早めた。キシは射精し、僕は彼の裸の腰を抱え込んで、喉の奥の方で飲み込んだ。
キシが腰を引こうとするのを手で止めて、口の中で弄んでいると、
「上野くん」
と唐突にキシが言う。
「はい」
僕はびっくりして、ペニスを口から離し、返事をする。
「くすぐったい」
「…よね」
キシは、まだ膝をついている僕の口元に、腰を屈めてキスをした。
「うがいしてこいよ」
「いい」
「しろよ」
キシは笑って、ベッドの脇に置いてあるティッシュを取りに行った。
僕は椅子に座り直し、目を閉じた。口の中にキシの精液のむせかえるような味がして、めちゃくちゃに興奮していた。
スウェットを履き直したキシが、僕の前に立つ気配がして目を開けた。
キシはちょっと僕の顔を眺め、黙って手を取って立ち上がらせると、ベッドに連れて行った。
僕を仰向けに寝かせると、キシがにっこりして、
「飲んじゃうんだ」
と言うので、頷いた。
キシは僕の体をまたいで膝を突き、めがねを外して、半ば放り投げるようにサイドテーブルに置いた。
顔を近づけて、僕の顎を軽く掴み、
「すっごくいやらしい顔」
と言いながら、目を細めて僕を見た。見られているのが、痛いほど気持ちよかった。
「口でするのが、好きなの?」
僕は頷いた。
「興奮する?」
「うん」
「されるのは?」
「好き」
「じゃ、して欲しいって言って」
「…して欲しい」
「なにして欲しいか、ちゃんと」
僕はキシの首を片手で引き寄せ、耳元で
「たくさん、してほしい」
と言った。
「乱暴にして。めちゃくちゃに」
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