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第24話
それからさらに1週間後。
「いーずーみーくん」
「うおっ、月形!?」
放課後、買いものをして帰ったら、マンションのエントランス前に月形がいてぎょっとした。
「なんでお前がここにいる?」
こいつにも他のやつらにも、自宅の場所を教えた覚えはなかった。
外壁に寄りかかっていた月形が、ポンと勢いつけて壁から身を離す。
「僕の情報網を甘くみないでほしいな」
「取り巻きの連中に、俺のあとでもつけさせたのか」
「そんな回りくどいことしなくても、キミのとこの担任に聞けば一発だったよ。最近部活に来てくれなくて心配してるって言ったら、様子を見に行ってくれって頼まれた」
なるほど、学校の個人情報の管理はガバガバらしい。
「わざわざうちまで来なくても、俺が部活に行かない理由なんて分かってんだろ。それに学校でも話はできるわけだし」
「でも泉くん、僕のこと避けてたでしょ?」
「…………。別に避けてたわけじゃ」
いや、実際のところ避けていた。
こいつに捕まりたくなくて、あれから放課後は早々に教室を出るようにしていた。
「避けてないなら、部屋に行ってもいいよね?」
マンションの建物を見上げ、月形の眼鏡の奥の瞳が笑った。
「お前、そういうとこズルいよな」
「泉くんが僕から逃げようとするからいけないんだよ?」
「あのな、世界はお前中心に回ってるわけじゃない。俺はお前の思い通りにはならない」
俺は苦笑いでマンションのエントランスをくぐる。
口で「思い通りにはならない」なんて言っても結局、俺はこいつには敵わないんだ。
それを知っているのか、月形は当然のように俺に付いてきた。
*
カギを開けて部屋に入り、通学鞄と買い物袋をテーブルに置く。
振り向くと月形は遠慮がちに、リビングを見回していた。
「適当に座れよ」
「うん……」
「なんか飲む? コーラかホットコーヒーしかないけど……」
「じゃあ、コーヒーを」
「分かった」
俺は普段使いのたいして美味くもないコーヒーを、月形のために入れた。
ここは、マスコミの目を逃れるため親に無理言って借りてもらっている部屋だ。
親以外の人間はほとんど来たことがない。
そんな俺の部屋に同級生の月形がいる。
ひと目を逃れて転校した学校で友達なんか作る気もなかったのに、変な感じだ。
味気ないモノトーンの部屋のソファに、月形は背筋を伸ばして座っていた。
マグカップを両手にソファへ近づいていくと、彼がふいにソファ脇のラックに手を伸ばした。
(……あっ!)
彼の手が、そこに置かれた文芸雑誌を取り上げる。
見られたくなかったのに失念していた。
雑誌の表紙には冷泉羽矢斗――俺のペンネームがでかでかと書かれていた。
「泉くん、これ」
雑誌から視線を上げた月形と目が合う。
「僕も、買って読んだよ」
「そう、か……読んだのか」
テーブルにカップを置く手が、わずかに震えた。
心臓が嫌な音をたてている。
「あれ、ワンライで書いたやつだよね? お題が『明治維新』の」
俺は答えられずに、ただ月形の顔を見つめた。
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