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第30話

「おじゃましました! 泉くん、また明日部活でね」 「ああ、また」 月形が爽やかな笑顔を残して去っていく。 (ふう……) バタンと玄関のドアが閉まったあと、母と俺、2人になったマンションに気まずい空気が流れた。 「それで、あの子と何してたのよ」 「なんもしてねーよ」 「私が来た時、すごく慌ててたじゃない」 思春期の息子のことなんだ、もう少し気をつかってくれてもいいのに。 この女はそれを追及する気でいるのか。 「ただ話してただけだ」 俺は母に背を向け、廊下をリビングの方へと歩きだした。 すると後ろから、ため息交じりの声が追いかけてくる。 「あんたまだ15歳でしょ? 親に言えないようなことをするのは早いと思うけど」 「なんだよそれ」 俺は面倒くささを全面に出しつつも、この女がある程度察しているらしいことに戸惑った。 振り向くと、母の瞳が冷えた光を反射する。 「あんた、2番目のボタン開いてる」 そうださっき、月形に外されたボタンを留め直して……。 1番上だけ留め直したけれど、2番目も開いていることに気づかなかった。 けどこれくらい、特別不自然なことじゃない。普段でもあることだ。 言い返そうとすると、それより先に母の口が動く。 「それからあの子、テーブルの上の眼鏡を探してた」 「……!?」 「友達の家に来て、眼鏡を外して置く理由ってあまりないわよね?」 (ええっ……?) 考えを巡らしたけれど、それに関しては言い訳が思いつかなかった。 何も言えずにいる俺を見て、母がもう一度ため息をつく。 「そういうことはせめて、卒業するまで我慢しなさい」 「だから……何を……」 聞き返す声がかすれた。 本当にこの女はどこまで推理して、何を想定して言っているのか。 「若い子はすぐ妊娠しちゃうから」 「は? あいつは男だけど……」 待て待て、それじゃ白状してるも同然だ。 まんまと誘導尋問に乗ってしまった。 愕然とする俺に、母はたたみかける。 「なら余計に大事にしなくちゃいけないんじゃないの? 男の子の体はそれ用にできていないんだから」 「…………」 「……」 「…」 その話を月形にしたのは、たまたま2人になった翌日の部活帰りのことだった。 「へええ。さすが泉くんのお母さん、察しがいいね!」 夕暮れの並木道を並んで歩きながら、月形は他人事のように笑っている。 「笑い事じゃないんだが……」 俺としてはため息しか出なかった。 生まれて初めての出来心だったっていうのに。 それを親にばっちり気づかれて、釘を刺されるなんて、誰だって凹む。 「でもさあ、それって」 笑いを収めた月形が、ふいにこちらに肩を寄せ、耳元でささやいた。 「卒業したら僕たち、親公認でエッチできるってことでしょ?」

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