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第31話

「……は!?」 すぐそばにある顔を見る。 一瞬、こいつが何を言っているのか理解できなかった。 「え、えええ……? そういうことになんのか!?」 「なるね」 その前向きすぎる解釈に戸惑っているうちに、腰に月形の腕が回ってくる。 腰骨が軽くぶつかる。 昨日両手に感じた細いウエストを思い出してドキリとした。 「待て、くっつきすぎ。後ろのやつらに俺が殺される」 10数メートル後ろを、チョーク始め月形の親衛隊がゆっくりと付いてきている。 普段ならやつらが、俺と月形の物理的な接触を許さないはずなんだが。 ところが月形は、俺の腰に回した腕を離そうとしなかった。 「でも僕、みんなにちゃんと言ったから。泉くんと付き合うことにしたって」 「はあああっ!? そんなん……俺が聞いてない!」 思わず悲鳴交じりの声が出る。 すると月形が、クスクスと肩を震わせて笑いだした。 「僕はちゃんと告白して、キミはそれを受け入れた。……まさか、体だけの関係のつもりだったなんて言わないよね?」 その言葉は冗談めかしているけれど、こいつの目は笑っていなかった。 えーと……俺としてはたぶん、単なる勢いと出来心で……。 あとのことなんて、あの時は考えてもいなかったし、そんな余裕もなかった。 今そのことをこいつに言う勇気は、さすがにないけどな! 俺の顔を上目遣いに見ていた月形が、またクスッと笑った。 「まあ、どっちでもいいよ。僕はとりあえず、キミとの初めてを楽しみにバージンを守ることにするから」 「あのなあ……。それもう、どっちでもよくないだろ」 俺は視線を外し、遠くの空を見る。 勢いで事に及ぼうとしていたタイミングは逃してしまったわけで、次はきっと死ぬほど緊張するはずだ。 それでもこいつに期待されたら、俺は一応、叶えてやりたいと思ってしまう……。 ……なんだよこれ。 俺もこいつのことが好きなのか? 「月形……」 「うん?」 俺を見上げるその瞳はひどく澄んでいて、深い部分にまで輝きを蓄えて見える。 「……いや、なんでもない」 あまり長くは見つめていられなくて、俺はまた視線を逸らした。 夕日のせいか、やけに顔が熱かった。 「何、変なの」 「いいから、いちいち追及すんなよ」 物書きだっていうのに、この気持ちをうまく表現できそうにないのがもどかしい。 とりあえず俺は卒業までの1年半、こいつとのことで周りのやつらに絡まれ続けることを覚悟した。

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