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その瞳に溺れる02

 この身体をもう数え切れないほど抱いてきたのに、まったく飽きることがない。それどころか毎日でもと思ってしまうくらいにハマっている。甘い言葉を囁かれるだけで喜んでしまう自分に自分でも驚いている。 「竜也、気持ちいいか?」 「ひ、ぁっ、ぁっ、いいっ、いいです。きもち、いいっ、……九竜さんっ、あっ」 「なんだ? もっとか? 素直に言えばもっと気持ち良くしてやるぞ」 「……あ、んっ、……も、もっと、してくだ、さいっ、あっあぁうっ、ぐちゃぐちゃにしてっ」 「お利口さん」  そのうちこの華奢な身体を壊しそうだと思うが、本人の無自覚なエロさは際限がない。感じすぎて髪を振り乱しているそんな姿まで美味そうに見えてさらに理性を崩したくなる。涙や唾液で汚れた顔まで可愛く見えるのだから大概だ。 「竜也」 「あっ、イクッ」  結局いやいやしたあとにも三回くらいイかせて、足腰立たなくなった頃に開放した。疲れでうつらうつらしているいとけない顔をしばらく見つめていると、視線に気づいたのか眠たそうな瞳がこちらを向いた。そして頼りない手が伸ばされる。  その手を掴んで唇に引き寄せるときゅっと指先を握られた。 「シャワー、浴びるか?」 「いまは、いいです」 「水は?」 「……ください」  ベッドサイドに置いていたペッドボトルを掴むが、ウトウトしている竜也はいまにも落ちそうだ。手渡すのは諦めて口に含んで口の中に流し込む。喉が上下して飲み込んだのを確かめると、もう一度唇を寄せる。 「まだ飲むか?」 「もう大丈夫です」 「寝ていいぞ」 「九竜さん」 「なんだ?」  ベッドの縁に腰かける俺を引き寄せようとする手は指先にすらほとんど力が入っていなくて、短い爪で微かに引っかかれる程度だ。子猫のような仕草が可愛らしくてしばらく見ていたい気分になったが、瞳が訴えかけてくるのには敵わない。  足元で丸まった毛布を引き寄せて竜也の肩へかけてやると、その隣に横たわり力ない身体を腕の中に抱き寄せる。するとすり寄るように胸に顔を寄せてぴったりとくっついて来た。 「ベッド買い替えたほうがいいでしょうか」 「どうした急に」 「この小さいシングルベッドだと九竜さん窮屈ですよね」 「まあ、確かに。でもあんたを抱きしめていれば問題ない」 「……最近、引っ越ししようかな、なんて考えるんです」  少しばかり重たいため息をついて胸元にすり寄る、その理由も仕草も可愛すぎて口元がにやける。髪を梳いてつむじに口づけを落とせば伸ばされた手に抱きつかれた。  この部屋は1LDKで決して狭くはない。一人暮らしならば十分すぎるほどで、在宅仕事で家にこもっている竜也には丁度いいくらいだ。けれど部屋は一人暮らしを念頭に置いているから二人で過ごすと少し不便な部分もある。  小さなベッドもそうだが二人で食事をするダイニングテーブルも小さい。ソファもコンパクトで並んで座るには窮屈だ。風呂に至っては3点ユニットバスなので一緒に入ることも叶わない。 「とりあえず家具を買い替えるだけでも十分じゃないのか。好きなのを買ってやるぞ」 「……でも」 「なんなら俺の家に越してくるか?」 「えっ!」 「けどなにもない部屋だから一人で寂しくなるかもしれないけどな」 「……今度、九竜さんのお家に、行ってみたいです」  投げかけた言葉に勢いよく顔を上げた竜也の瞳は期待を含んでキラキラとしている。それを見るとやはりNOという返事は浮かんでこない。そしてもう一つ、家に他人を入れたことがない、と言う俺の決めごとが覆される。  とは言えこれはすべてこの男に限ることなので、ほかの人間には適用されない。 「じゃあ、次に会う時にあんたの仕事が片付いてたらな」 「頑張って仕事します!」 「わりと竜也は仕事を詰め込む癖があるから、少しゆとりを持ったらどうだ?」 「一人だと仕事するくらいしかなくて」 「ならなにか生き物を飼ってみるとか」 「九竜さんはなにが好きですか?」 「俺はあんたがいればいいから、好きなものを選べばいい」  正直言えば生き物を飼って意識がそちらへそれるのだって気に入らない。けれど仕事ずくめの竜也に余裕を与えるには別なものに意識を持たせる必要がある。一人でいる時間も長いし、少しくらいは癒やされる時間はあったほうがいい。  だがいまは考え込む彼を抱き寄せて、自分にだけ意識が向くように口づけた。

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