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その瞳に溺れる03

 大体休日はデイトレードで値動きを見ながらの一服と読書、さもなくば休日出勤。そして夜には飲みと遊びに向かう。しかし最近は昼間の時間を潰したあとは竜也の仕事を見計らって彼の元へ向かうことがほとんどだ。  相手の家で食事をしてのんびりと甘ったるい時間を過ごすのは、これまでを振り返っても一度もない。手料理なんて用意されて待っていられたら重くて関わりたくない、くらいは思っていた。人間変わる時は変わるのだなと思う。  そして陽の明るいうちに出掛け歩く生活なんて何年ぶりだろうかと考える。けれどあれがしたいあそこへ行きたい。そんなおねだりを聞いていたらそれもだいぶ慣れてきた。今日も仕事を張り切った竜也から昼前にメールが来て、機嫌良く出掛ける支度をしてしまった。  現在時刻は十三時を少し回ったところ。普段なら竜也のマンションまで迎えに行くのだが、今日は待ち合わせがしたいというおねだりのため駅前で落ち合う約束になっている。時間にはまだ早いけれど、あいつのことだからきっと早くから待っているだろうと思った。  そうしたら案の定、駅前の時計台の下に立っている姿があった。ざっくりとした白いニットにぴったりとしたスキニーのデニムは、彼の線の細さを強調しているように見える。長い袖で手の平が隠れるのをなんて言うんだったか。  少し長めのミルキーブラウンの髪に大きめの瞳。ぱっと見た感じ女にも見えるせいかやたらと男が振り返っていく。けれど当人は握った携帯電話に気を取られていてそれどころではないようだ。  約束の時間が待ち遠しい、そんな様子がありありとわかるそわそわした表情。時折髪へ手をやったり鏡をのぞいてリップを塗ってみたり。すぐに声をかけてやろうと思っていたのに、その姿があまりにも可愛くてつい眺めてしまう。  しかししばらく眺めていたが、少し前から行ったり来たりウロウロしていた男たちが近づいたのを見て足を踏み出す。 「竜也」 「……あっ! 九竜さんっ」  話しかける男たちに怯えた様子を見せていた竜也は呼びかけた声に反応してぱっと顔を上げる。そんな表情の変化に口が思わず緩みそうになって意識して引き締めた。しかし花が開いたみたいな喜び溢れた顔はキラキラと輝いていて、その眩しさに目を細めてしまう。  ゆっくりと近づいていくと竜也を取り囲んでいた男たちへ視線を向ける。こちらに気づいたやつらは肩を跳ね上げると後ろへ飛び退いて、よくわからない言い訳をしながら逃げ去っていった。 「化け物でも見たような反応だな」 「うふふ、きっと九竜さんが格好良すぎて圧倒されちゃったんですよ。今日も素敵です。いつもダーク系が多いですけど、こういうナチュラルな色合いも似合いますね。髪を下ろしたらきっとぐんと若く見えますよ」 「そんなに俺は老けてるか?」  昼間の映画デートをするのにいつもの黒ずくめでは目立つだろうと気を使ったつもりだったが、そう返されるとは思っていなかった。けれど少し眉をひそめたら竜也は大げさなほど首を振った。 「そ、そういう意味じゃないです! 年相応に男らしくて格好いいです」 「まあ、あんたにそう思ってもらえるならそれでいい」  見上げてくる視線にかけていたサングラスを外して胸ポケットへ引っかける。そしておもむろに手を伸ばして目の前の身体を抱き寄せるが、途端に驚いた顔をして頬を染めた。俯いた視線をのぞき込むように身を屈めれば、ますます白い肌が朱に染まる。 「駄目です。……ここ駅前で、人が、見てます」 「見たいやつに見せておけばいいだろ」 「だっ、駄目ですっ」  指先で顎を持ち上げて顔を近づけたが、触れる寸前で両手に押し止められた。添えていた指を離すと思いきり顔をそらすように俯く。けれどあらわになっている左耳が赤い。素直な反応が可愛くて、にやついたままそっとそこに唇を寄せた。 「あっ」  ビクリと跳ねた細い肩を抱き込めば抵抗もないまま腕の中に収まる。けれどそれに気づくとジタバタとし始めて、余計に離したくなくなった。柔らかい髪に鼻先を埋めるといつものコロンの香りを嗅ぐ。

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