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零話

 貴方は、いつ、どのように『自慰行為』を覚えただろうか。  ネットで知った。親に教えてもらった。友達に教えてもらった。等色々な『自慰行為』の覚え方があるだろう。  そういう俺は、小学校卒業前に、兄ちゃんに教えてもらったわけだが……    「晴人ー久しぶりに、一緒にお風呂入ろー」  俺は胸の高鳴りを、悟られないように、淡々とした口調で、そう言った。  晴斗も部活から帰り、晴斗が風呂に入ろうとした頃。  興味本位で、ただ興味本位で、兄である晴斗の体つきを見たくなったのだ。  「いーけど急やな」  はにかみながら、そう言う晴斗。その声は、今でも高い、俺の心拍数を、跳ね上げた。  成長期2人が、服を脱ぐのには少し狭い脱衣場へ行き、俺は晴斗を観察した。  筋肉質で、格好の良い、その体つきを。  俺の視線は下で止まり、晴斗のもう子供のものとは言えない、大きく、太い。そんな性器のもとへ釘付けとなった。  下の毛も生え揃い、少し黒ずんだ、性器の方へと……  俺は、不意に恥ずかしくなり、顔をそらす。  「んじゃー、先行っとくでー」  俺のことを、意識していないような、晴斗の声が、小さな風呂に響き渡る。晴斗の体を見ていると、自分の身体は素直になっていった。  晴斗の少し後で風呂に入ると、晴斗は少し驚いた表情をしたあと、俺に、  「冬樹、お前たってるやん」  このときはまだ、何を言っているのか。意味が分からなかった。けれども今更、恥ずかしくなる。  「たってるって?」  「あー……教えてなかったっけ」  無知な自分への羞恥心からか、それともその言葉に、いやらしさを感じたのか、俺の顔が赤くなるのを感じた。  すると突然、晴斗は、俺の大きくなった、性器を持ち、刺激を与え始めた。  「ちょ……はると?」  「動くなって。すぐに楽になるから」  頭もふわふわしてきて、何も。そう、何も考えれないようになった。  しばらく刺激を与え続けられると、気持ちよくなり、自然の摂理か、  「晴斗、なんか出る」  「我慢せんでいーよ。出しても大丈夫」  晴斗は、いつもの優しい声で、俺に、ほほえみかけた。   声が漏れる。晴斗の手は速くなったり。ゆっくりになったり。強くなったり。弱くなったり。   声が漏れる。それは晴斗の、俺のものと比べて大きな、その手によって。   声が漏れる。それは晴斗の、どこかフェロモンを漂わせた、甘い、匂いによって。   声が漏れる。それは晴斗の、何でも見透かすような。真っ黒で、暖かく見えるのに、どこか寂しげな瞳によって。  「はる……と……」  どれだけ我慢をしても、自分の身体は、正直で、すぐに果ててしまった。  自分の体液で、その大きな晴斗の手を汚していることに気がついた。    ーーーーすっげぇエロい。  それは俺の思ったことなのか、それとも晴斗の考えが乗り移ったのか。当事者である俺にも分からなかった。  「冬樹可愛いな笑」  火照った顔でそういう晴斗。顔が赤くなっているのが、熱いことから来ているのか、それとも……  晴斗の性器は、普段の時より大きくなって見えた。  空も切なくなるような暗闇に染まり、街。夢の世界に落ちた頃。  俺はトイレに行くため、晴斗の部屋の前を通る。すると、部屋の中から、声が聞こえてきたので、耳をすましてみると、  「ふ……き……」  クチュクチュと、言った音と共に、晴斗の声が聞こえてきた。  普段とは少し違う、喘ぎ声ともとれる、晴斗の声に、少し興奮を覚えた。  だからといってはなんだが、トイレに少し駆けていった。  兄が、晴斗が、そうしてくれたように、自分の性器に刺激を与え続けた。一人の世界。吐息も少し漏れる。  しだいに晴斗のことしか、考えられなくなる。  晴斗も、こんな汚れたことをしているのだろうか。   ーーーー晴斗の、瞳に、溶かされたい。     ーーーー晴斗の、声に、耳を壊されたい。     ーーーー晴斗の、少し柔らかい肌に、触りたい。   ーーーー晴斗の、甘い匂いに、心臓を奪われたい。   ーーーー晴斗の、耳を舐めて、想像もつかない味に酔いしれたい。    俺はすぐに果て、汚してしまったトイレを、トイレットペーパーで拭き、トイレ後にした。   ーーーー気持ち悪い。  こんな汚れた自分。自分に気持ちが悪くなる。途端に切なくなり、胸の奥が、締め付けられる気分になった。  部屋に帰る頃には、もう晴斗の声はしなかった。  これが、始まりだった。

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