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一話

 貴方が普段しているものはなんですか?   こう聞かれた時、貴方はどう答えるだろうか。趣味を答えるか?暇潰しでしかないものを答えるか?  どちらにせよ、関係ない。世の中には、そういう人がいるってだけだ。  それから、いくつか月日がたち、晴斗は高校生に、俺は中学生になった。  何をとは言わない。晴斗に手伝ってもらうこともあった。しかし、晴斗も受験生。流石に毎回手伝って貰うわけにもいかない。  中学校では、晴斗と同じ、バスケ部に入った。  バスケ部では、仲のいい先輩がいる。小学校からの付き合いで、現二年生の勇斗が一緒にいる。  バスケ部は、辛いことも多い。勿論辞めたいと思ったときも少なくない。  しかし、晴斗の事、を考えると、不思議と力が湧いてくる。そんな気がした。  「おーい!冬樹~部活行くぞ~」  勇斗は、晴斗に憧れており、笑い方なども真似ている。それが晴斗の弟である俺からすると、少し可笑しく感じるのだが。  俺はりょーかーい、と子供らしく返事をし、可愛く振る舞って見せた。  「そういえばそろそろ大会あるけど、レギュラーとる自信あるん?」  まるで、自分は選ばれること無いかのように、勇斗が晴斗のような、笑顔を見せて、俺に問いかける。  「ん~どうせ先輩達が優先されるやろ笑」  と、八十点の解答をし、  「まぁ否定はしない」  とこれまた八十点の返事。  俺達の間には、無意味な会話しかなかった。  「てかなんだかんだ、先輩達もある程度は、上手いし。俺は三年生が引退した後、そこ狙うわ~」 と、今度は百点満点の返事  これには勇斗も困ったのか、曖昧に笑う。  そんな意味の無い会話。これが俺にとって心地が良かった。俺と勇斗は話しながら体育館に向かう。体育館には既に、2人の先輩が来ていた。  「こんちわー」  「朝山おはよー」  二人の先輩は、シュート対決をしているようで、邪魔してはいけない。  二人の世界を作っているようだった。  数時間がたち、空が暁色に染まる。  そうして、バスケ部がさて帰ろうかと、かたずけをしていた頃。  「今日一緒に帰ろー」  勇斗が、慣れた手付きで窓をしめ、話しかけてきた。  「いいよー」  「今日もストー……家まで送るわ」  俺が部活に入ってから勇斗は、毎日のように俺の家に、ついてきていた。  「はいはい。ストーカー期待してます」  生徒には嫌われやすい、顧問の話も終わり、勇斗との約束を果たしていた。  「部活お疲れー」  話題を発展させるためか、勇斗がそう言って、練習を思い出させてきた。確かに辛い。  「まじ疲れた。死ぬ」  と本音百%で答える。この返答は何点なのだろうか。  「そういえば! ふゆきっていつも帰ったら何してるん?」  「んー ……YouTubeみてるかなー」  勇斗は、真心をこめた、優しいはにかみ方で、俺に話しかけてくる。  本当に、良い先輩を持ったと思う。  「ゆーとは?」  「んー……俺はねー……本……かな?」  勇斗が、本を好きだと言うのは、部活内でも有名な事だった。  勇斗は、部活が始まる前、終わった後、休憩中、いつでもどこでも読む。  本人曰く、一人の世界に入りたいらしい  「どんなジャンルの本が好きなん?」  お決まりの質問を浴びせると、口に手を当て、内緒、という。  そういう勇斗は、やはりどこか晴斗を彷彿とさせた。  しかし、逆に聞かれて困る話題。それなら聞かなければいいのに、と思った。やはり、俺に構って欲しいのだろう。  見え透けた考えだ。  「おーい!冬樹ー!」  すると、ばったり晴斗と出会った。どうやら帰り道が重なったようだ。  「こんばんは」  後輩である勇斗が、挨拶を済ませる。  「晴斗も今帰り?」  「そー。わりと速く部活終わってん」  兄弟の、当たり障りの、無い会話。  勇斗は、どこか虫が悪く感じたのか、  「あ、俺はここで帰ります。冬樹~また明日。先輩もさようなら~」  と、俺達の家近くまで来て、帰っていく。  「バイバーイ」  声変わりした晴斗の声。まだ少し、幼い俺の高い声。二人の声がハモって少し可笑しく思えた  「橘と何話してたん?」  晴斗が、どこか幼さを残した表情で、俺に問いかける。 「んー。部活の話とか」  「そういえば! そろそろ大会やろ? どうなん?」  まぁ、レギュラーのことなんだろう。そう思いながら、主語が無いのを指摘するように、んー? なんのことー? と、俺はあざとく答えた。  「大会レギュラー取れそうなんですかー? てか分かってたやろ」  少し、頬を膨らまして、そういう晴斗。晴斗が、俺よりもあざとく見えた。それが少し、可笑しくて、可愛かった。  「バレた? 流石は俺の兄ちゃん。多分先輩達が優先されると思うよ~」  今度は俺が、更にその倍は、あざとく笑って見せた。  「なにそれあざとい」  そういう晴斗も、十分あざといと、笑いながら言う。二人の間に、笑いが生まれ、暖かい風が吹いたように感じた。

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