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四話
兄弟がいる人に質問だ。兄弟の大切な人に嫉妬したことはあるだろうか。これにはある人も結構いると思う。しかし、兄弟の友達に嫉妬する人はいるのだろうか。
ブラコン。シスコン。言葉にするのは簡単だ。だが、どこからがそれにあたるのだろうか。人によって違うもの。それはとても美しいものだと感じる。
「おはよう!」
学校付近で会った勇斗と、昨日シュート対決をしていた片割れ、千夏が話しかけてきた。俺は、敬語が苦手で、そのことで勇斗に相談すると、先輩達は、敬語を使わなくてもいいと言ってくれた。そのため、俺が敬語を使う事は少ない。
「おはよう。二人は今日も一緒?」
彼らは、仲が良く、週一程度で千夏が勇斗を迎えに行き、二人で登校していた。
「まぁな」
乾いた笑いを見せる千夏。
「二人が兄弟にプレゼント渡すとしたら何にする?」
「あー……晴斗先輩の話か」
晴斗の後輩である彼らには、ばれていたようだ。
「いや、そーやけど。何も思い付かんねんなー」
「去年は何にしたん?」
去年の話を二人にした。
「あー確かにその台詞先輩らしいな。千夏、覚えてる?去年さ……」
話を振ったのは俺なのに、二人で話し込んでしまった。俺を疎外感が襲う。三人なのに、一人だけ空中に浮いている気分。そこはかとなく居心地が悪い。
二人で話し込んでいる隙に、二年生のクラスがある階層についてしまった。これ以上話すには、立ち止まる意外に方法は無い。
「あーごめん! 今日一日考えとくわ」
二人はこれ以上俺に時間を割く気は無いようだ。今は晴斗のプレゼントだけに集中しよう。少しの間だけ、勉強はそっちのけだ。
晴斗の喜ぶ姿を想像すると、頬が緩んだ。
空は、綺麗な青色で、光がまぶしい、気持ち悪いほどの快晴だった。
今日は、とても一日が速かった。どんよりとした気分で、部活へ向かう。ノートも満足にとれていない。
「こんにちはー」
体育館に俺の声が響き渡る。また千夏ともう一人の先輩、日向はシュート対決をしているみたいだ。
日向の打ったボールは、美しい曲線を描き、リングの中を通り抜ける。
すると、千夏がこっちに気がついたようで、こちらに近づいてくる。
「先輩に何渡すか決めた?」
首を傾げ、そう問い掛けてくる千夏。
「何も思い付かない」
この会話に取り残された日向が、不憫に思えてきた。しかし、俺の心配はいらなかったようだ。
「あ、晴斗先輩もうすぐ誕生日なん?」
日向は俺の事情をすぐに理解してくれた。
「そうやねんけどなー。日向は何がいいと思う?」
「臭い台詞やけど、結局感謝を伝えるのが一番大事やろ。俺も弟からの手紙で泣いたからな」
日向に弟がいることを初めた知った俺にとっては、地味な衝撃を受けた。しかし、日向もなかなかよいことを言う。
「ありがとう! 助かった!」
千夏は、少しふてくされた表情をし、
「結局俺いらんかったやん。まぁなんも思い付かんかったけどさ」
と、独り言の様に呟いて見せた。それがどこか可笑しくて、笑ってしまった。日向と千夏も釣られて笑う。
晴斗が人気そうで、とても嬉しかった。だけど、それと同時に、自分の知らない先輩の晴斗を知っている二人に、ちょっとだけ嫉妬を抱いた。
「あ、そういえば勇斗はまだなん?」
「ぁぁ、あいつ授業聞いてないとかで怒られとったで」
晴斗の事を考えてくれたのだろうか。嬉しい反面、嫌な気持ちもあった。晴斗で悩むのは俺だけでいいのに。独占欲に似た感情がそこにはあった。自分でふった話なのに、身勝手で、自分自身が嫌なやつに見えて、兄に独占欲を持っている自分が気持ち悪くて、泣きたくなる。
俺は一体、どうしてしまったのだろう。
天気は、朝の快晴など無かったかのように、暗い雲に覆われていた。
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