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第114話

「……」 あえて何も返さずにいると、彼が俺を見て不思議そうな顔をした。 「一緒に庭を散策でもしたのか?」 あまりに意味深な言い方をしていたから、さすがの彼も何かを感づいたらしい。 「あぁ、いえ、偶然です。先日たまたま庭で出会っただけで。少しエスコートさせていただいたんです」 「エスコートですか」 「奥様お一人でいらっしゃったようですが、旦那様は何をされていたのですか? エスコートされた方がよかったのでは」 「え、あぁ、その」 そのとき、彼が少し複雑そうな顔をしたのを見逃さなかった。少し傷ついた顔。 こいつのもう悪ふざけにはもう付き合っていられない。彼を傷つける奴なんかに付き合う暇はない。 「エスコートなんてされてねぇよ、勝手にこいつが付いてきただけだ」 ぴしゃりと引っ叩くみたいに言って、彼の腕を引く。 「行こう」 「ハニー……」 「つれないですね、せっかく出会えたのに」 もう声を聞くだけでも腹が立つ。何も答えずに彼の腕を引いて部屋に戻る。怒りもそのままに露骨に音を立てて鍵を閉めた。 毛を逆立てた猫みたいにフーフー言ってる俺を見て、さすがの彼も引いていた。 「ハニー、大丈夫か……?」 「大丈夫じゃない」

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