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第113話

俺はまた気配を消しつつ、2人の会話が終わるのを願っていた。話に混じろうという気は一切ない。ただでさえ彼とのこれからの時間に水を差された状態で、しかも相手はあの王子で、全然いい気分がしなかった。 「あぁ、それは失礼いたしました。妻は酔ったわけではなく、その」 「その?」 「えーと、なんといいますか、私が抱きしめたかっただけでして」 適当な言い訳もできねぇのか、と彼にツッコミそうになる。その場を濁すとかしたらいいのに、それができないのがお人好しの俺の夫なのだった。 後ろから服の裾を引っ張ると、彼がようやく適当に濁しはじめた。 「あ、いや、あの、妻が足が疲れたというので、私が抱えて連れて行こうとしたのが正しいところで」 正しくないから言葉がおかしい。小突きそうになったのをグッと堪える。 それにしてもこいつ嘘つくの下手だなぁ、よくそれで経営者やってられるよな。なんて考えている場合ではなかった。 「ふぅん」 とはいうものの、完全に納得していない風の相槌。 「城の中は広いですからね。足が疲れます」 王子様が動いた。ゆっくりと俺たちに近づいてくる。うっすら笑いながら。 「お城の庭もとても広い。ねえ、奥様?」

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