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第116話
「ハニー、怒らないでくれ、俺は心配で」
そっと俺の肩に触れてきた。その手を、勢いで振り払ってしまった。
「あっ」
やってしまってから声が出た。びっくりしたのは俺も彼も同じだ。思わず自分の手を見る。
「ハニー……」
小さくて弱々しい声が降ってきた。見上げた先の彼の顔は、本当に悲しそうだった。
「っ、違う!」
慌てて彼の腕にすがりつく。けれど、彼の表情は変わらない。
「すまない、気に入らなかったようだな」
「だから違うって」
「様子がおかしかったから、ちょっと心配だっただけなんだ」
「待って!」
全ての歯車が狂った状態とでも言おうか。こうなってしまうともう何を言ってもどうしても信じてはもらえない。
今まで生きていてこんな場面いくらでも遭遇しているはずなのに、今日、この瞬間が本当に怖い。だって、今までこんな風に彼を拒絶したことなんかないんだから。
こんなことを望んでいたんじゃない。ただあいつからさっさと離れたくて、ただ彼を心配させたくなかっただけなのに。
自然と、彼の腕を掴む腕が震えた。
「違う、違うんだよ」
縋るようにしながら夢中で喋り出すと、声まで震えていた。
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