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第117話
「こんなつもりじゃ、なかったのに」
もう彼の顔を見ているのも辛くて、彼の腕を掴んだまま、がっくりと頭を下げた。
俺なりに彼を守りたかっただけなのに、一体どこで何を間違えてしまったんだろう。
指を絡めて繋いでいた手が解けて、人混みの中ではぐれてしまったみたいな恐怖が、心臓にじわじわと穴を開け始めた。
「俺が王子のことよく思ってないのは事実だよ。どうしてかは言いたくなかった。けど、言う。ちゃんとお前に言うから」
きちんと、彼に話すこと。今はそれしか誠意を表す方法がない。
「だから嫌かもしれないけどちゃんと聞いてくれ、頼む」
そうだ。心配させたくないなんていうのを盾にしたところで。
「本当にこのことを言ったら、お前が心配すると思ったんだ」
彼にしてみたら、それは彼のことを信用していなかったってことに等しいのかもしれない。
「でも、ちゃんと言うから。頼む、聞いてほしい」
彼の腕の中に収まるみたいに抱きつく。顔は見せないままに。
彼はしばらく黙った後、静かに、そっと、小動物でも触るみたいに抱きしめてきた。
「……また俺の知らないところで、ハニーが傷つけられてしまっていたのか」
渋い声は、さっきと変わりなく寂しそうだったけれど、ほんの少しだけ怒気を感じた。
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