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第118話
何があったかなんてまだ何も話していないのに、なにか察したらしい。そういうことには本当に敏感だった。
「いや、別に傷つけられたわけじゃ」
傷つけられたという言葉にぱっと頭に思い浮かんだのは、かつて経験した肉体的な傷の方。そんなことはされていないからすぐに否定したって感じだけど、彼はそれすらお見通しみたいでゆるく首を横に振っていた。
「心を傷つけられたんだろう?」
「……」
そうか。俺は心を傷つけられていたのか。
あいつのことが嫌いなのも彼を守りたいのも間違いではないけど、根底にあるのはそういうことだったんだ。だから離れたかったんだ。
恥ずかしながら、その時初めて、彼にどうしてもわかってもらいたかったことそのものを、自分自身きちんと理解できたような気がした。
「心の傷は見えないから、きちんと察してやらなくてはいけなかったというのに」
本当に不甲斐ない、と言いながらより強く抱きしめて来た。
「よくわかったな、心の傷なんて」
なんて言ったらいいのかわからなくて、肯定しつつも乱暴にそんなことを言ってしまっていた。
「やはりそうだったのか。もっと早く気付くべきだった」
ため息混じりに返されるけれど、俺はそのため息にホッとしていた。
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