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第179話
「なぁ、なんであの政府の人も式に呼んだの?」
帰りの飛行機の中で、彼に聞いた。ランクを落としてビジネスクラスになった。そうじゃないと顔を突き合わせられないから。
「本当なら日本人代表として、キューピッドとそのパートナーに出席して欲しかったんだが、そうもいかなかったからな。代わりに」
「おっさんじゃ代わりにもなんねぇだろ」
思ったままを口にすると、彼が苦笑する。そして手元にあった淹れたてのコーヒーを一口啜った。
「それもあるが、彼はアライだったからな。式にふさわしいと思ったんだ」
「アライ?」
そういえば名前聞いてなかったな。
「へぇー、あの人アライさんっていうんだ」
感心して頷くけど、彼は首を横に振る。
「いいや、名前じゃないんだ」
「はぁ?」
「彼の娘が女性のパートナーと結婚したと言っていただろう、そういうことさ」
「はぁ」
なんだかよくわかんないけど、まぁいいや。もう会うこともないだろうし。
彼は俺の手を取るとその甲に唇を落とした。
「愛してるぜハニー、これからもずっとな」
まるで、式の時のあたたかさと緊張感を彷彿とさせるように。
「……俺もだよ」
彼の前でもあんまりやらない、満面の笑みを返した。
ー終ー
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