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第178話

「それでは、誓いのキスを」 リハーサルしたわけでもないのに、淡々と式は進んで、いよいよその瞬間がやってくる。 「ハニー」 足音を立てるのも惜しんで、静かに向かい合う。 彼の瞳が少し潤んでいるのが見えた。 「ったく、泣くなよ」 「すまない」 俺だってさっきまで泣いてたくせに。自分のことをすっかり棚に上げて、我ながら調子がいいもんだ。 彼の目元を、親指でそっと拭ってやる。 「キスはお前からして」 そっと囁いて唇を重ねやすいように軽く上を向く。 「お前とのキスで、こんなに緊張するキスは初めてだ」 そこでやっと笑ってくれた。 神様の前で、静かな、穏やかな、あたたかいキス。 唇を離した瞬間、広い教会の中に、蝶々が飛ぶみたいなささやかで優雅な拍手の音が響いた。 「おめでとう2人とも」 「よかったわ、幸せにね!」 「お幸せに!」 世界中の誰にも負けないくらい、幸せな式になったと思う。 愛する人とちゃんと向かい合って、改めて誓い合うことができて、これ以上の幸せは望むべくもない。 (まぁ、やり方は強引だったけど) けれど、いつも全力で俺のことを思ってくれている。 俺は一生、そんな彼のことを全力で愛し続けるだろう。

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