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第3話

「蓮、飲みなさい」 「…………」  渡されたのは避妊薬。最初のセックスの時から事後には必ずそれを渡される。最初はほっとしたが今ではなんとなく憂鬱に感じる。妊娠されてはまずいからだ。 「蓮」 「わかってるよ」  薬とグラスを渡されて蓮は一気にそれを飲み干す。あれから毎回、蓮は発情期にはアレックスを呼び出し、精を受ける。しかしなぜアレックスは魂の番がいる身で自分のことを抱いたのだろう。今でも抱いてくれるのだろう。同情? でも同情でもいい。たった一晩でもアレックスを束縛できるのなら。殊勝な心を隠すように蓮は大きくため息をついた。 「早く帰れば」 「そうだな」  身支度を始めるアレックスを横目で見ながら蓮はベッドに沈み込む。白い天井に視線を移してアレックスがいなくなるまでそうしている。最初にアレックスに出会わなければ蓮は路上で人間のαに犯されて妊娠していたかもしれない。うなじを噛まれて強制的に番にされていたかもしれない。アレックスにはどんなに感謝してもしきれない。そして、愛している。  ドアが閉まる音が聞こえる。蓮は薄ら笑いを浮かべて一人涙を流した。 ──どうしてアレックスには魂の番がいるのだろう。もうすべてが遅い。 「美来ちゃん、いつもシャンパンありがとう」 「ううん、蓮くんのためになるのなら」 「でもあんまり無理しないでね」 「ふふっ、ホストなのにそんなこと言うの、蓮くんくらいだよ」  シャンパン、入ります! とヘルプに入っている新人の大きな声が店内に響く。どよめきが起こり拍手が起こる。  蓮はこの店のナンバーワンだ。アレックスに拾われて二年目。トップになることでアレックスに認めてもらいたいのと生来の負けず嫌いでここまでのし上がった。嫌がらせはある。陰口もある。だが頑張れば頑張った分だけ見返りのあるこの仕事は気に入っていたし、天職だと思っていた。 「じゃ美来ちゃんにフルーツ、サービスさせて」 「蓮くん、ありがとう! あのね、今日も相談があるんだ」 「わかった、任せて。……ちょっと失礼するね」  発情期の翌日で少し疲れが出ていた。裏で一息つこうと待機部屋に入るとひとつ先輩の瞬がソファで大の字になっていた。 「瞬さん」 「おっ、蓮」  瞬は年上とは思えないくらいかわいらしく、まだ高校生くらいに見える。βではあるが感が鋭く、蓮とアレックスのことを知っている職場でただ一人の男だ。 「昨夜は大変だったね」 「ええ」 「あんまり抑制剤飲み過ぎない方がいいよ。身体壊す」 「ありがとうございます」  蓮はΩであることを隠したいがために普段から強めの抑制剤を飲んでいる。高価だし身体への負担も多くよいことはなにもないのだが、そうでもしないと不安でいられない。 「オーナーが途中でいなくなっちゃったからさ、一緒だと思って」  ふと頬が熱くなる。瞬にはなにもかもお見通しだ。 「でもさ、あんまり深入りしちゃダメだよ」 「瞬さん」 「オーナーには魂の番がいるんだから」

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