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光射す午後に17
「……何処だ、樹は、」
「ご案内しますよ」
男は写真をポケットに仕舞うと、手をあげた。
路地に停めてあった黒塗りの高級車が、静かに近づいてくる。
後部座席のドアが開いた。
「さ。どうぞ」
促す男をジロっと睨みつけ、車に乗り込んだ。
頭の隅で警鐘が鳴っている。
こんな怪しい誘いに軽率について行くべきではないと。
だが、後ろから突きつけられている物騒な物の脅し以上に、見せられた樹の写真に突き動かされていた。
樹は何故、この怪しげな連中と関わっているのか。どうしてこんな写真を撮られたのか。
……樹……おまえは今、どんな生活をしている?
それを知る為には、こいつらについて行くしかないのだ。
「そろそろ来る?」
そわそわと落ち着かない様子の和臣に、月城は苦笑した。
「あと10分ほどで着くと連絡が入ったよ」
「そっか」
和臣はちらっとこちらの顔を見て、バツが悪そうに目を逸らした。
「君が樹くんのことを知ったのは……幾つの時?」
和臣は口をぎゅっと引き結び、答えない。
こちらで調べた情報では、和臣が巧の手に堕ちたのは、高校にあがる前だ。
ちょうど樹の時と同じ歳頃だった。
どのような経緯で和臣が巧と出会ったのかは分からない。当時、頻繁に日本に帰国していた巧と違って、自分と樹はずっとアメリカにいた。
山形にご両親と住んでいた和臣が、何故、仙台にいる巧と出会ってしまったのか。接点があるとしたら、樹の兄の薫だ。いや、薫本人というより、当時薫と付き合っていた妻の冴香だ。
「君はお姉さんが大学生の頃、仙台のマンションに泊まりに来ていたの?」
和臣はこちらを睨みつけると
「なに聞かれても答えないよ。まずは樹さんと話をしてから」
……強情だな……。
月城はそっとため息をついた。
この1週間、何度もさりげなく探りを入れたが、和臣は頑として「樹さんと会ったら話す」と言い張って、質問には一切答えなかったのだ。
樹がこちらに来る前に、出来れば和臣から情報を引き出しておきたかった。
和臣の存在はイレギュラーだったのだ。何故どんな経緯で巻き込まれてしまったのか、詳細が分からなければ今後の手の打ちようがない。
スマホが着信を告げる。
画面の表示は「樹」
月城は椅子から立ち上がり、スマホを耳にあてながらドアの方に向かった。
「来たの?」
問いかけに振り返って無言で頷くと、和臣は少し緊張した面持ちになった。
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