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光射す午後に27

……そうか……何か薬を嗅がされて……。 指1本動かせないのは、薬の影響もあるが、手も足もガッチリと拘束されている。 白昼堂々、まさかこんなドラマのような目に遭わされるとは思っていなかった。 あの人数に取り囲まれて、実際に目にはしなかったが物騒な物を後ろから突きつけられて、あの状況で彼らを振り切って逃げられるとは思えなかった。だがこれは、かなりまずい状況なのかもしれない。 そうは思うのだが、意外と自分は落ち着いている。彼らの目的が何なのかは分からない。ただそれが、樹の今の状況を知る唯一の手段なのだ。 愚かにも一旦は自分で断ち切ってしまった、樹に繋がる細い糸。もし樹が、自ら望まない人生を歩んでいるのだとしたら、今度こそ自分に出来るだけのことはしてやりたい。 ……樹は嫌がるかもしれないが……。 「気分はどうだ?」 不意に上から声が降ってきた。 知らない声だ。 返事をしようとして口を開けたが、嗄れた呻き声が出ただけだ。 「まだ薬が効いているようだね。もう少し、ここで眠っているといい」 「……いつき……は、何処だ」 何とか言葉らしい声が出た。少し喋っただけなのに、口が怠い。 「自分の身の心配ではなく、彼の心配か」 男はくく……っと小さく笑うと、顔の横辺りにドサッと腰をおろした。 「樹くんはここにはいないよ。だが、すぐに会えるだろう」 ……ここにはいない……? 「……あんた、は、……何者だ」 視界を奪われているから、男の表情は分からない。 「私か。さあ、何者かな。樹くんがここに来れば、分かる」 男はそれだけ言うと、黙ってこちらを見下ろしているようだった。 もっと何か言ってやりたいが、口が重怠い。 意識が徐々に遠のいていく。 薫は抗えずにまた、意識を手放した。 「君はここに座ってて。もうすぐ人が来るから」 「別室に置いておかなくていいのかよ?」 和臣が拗ねた顔で樹に突っかかる。 樹は苦笑して 「君は、知りたがりだから。いいよ、状況が分からないと不安だよね。ただ、勝手にあれこれ動くのだけはしないと、約束してね」 「……分かってる。約束する。で、拉致られたの?藤堂薫」 「……うん」 「ヤバいんじゃねーの?」 「そうだね。でもあいつらの目的は、僕だから。にいさんは、絶対に、救い出す」 和臣は身を乗り出した。 「俺のせいだろ?俺があそこから抜け出したりしたから」 樹は和臣に穏やかに微笑んでみせて 「大丈夫。君は被害者だ。君もにいさんも、本来なら関わるはずのない世界だった。君とにいさんを、元の世界に戻す」

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