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愛しさの先にあるもの2
向こうから指定された建物は、繁華街から離れ、大きな川を超えて山道を20分ほど車で行った先の、高級住宅街の奥にあった。
周りを森林に囲まれたそこは、延べ床面積が500坪以上はある大邸宅が立ち並ぶ。門の前に車を停め、ナビで確認しようとした時、大きな鉄製の門が音もなく開いた。
「すげぇ……」
和臣がため息混じりに呟いて、ヒュウっと口笛を吹く。
月城は運転席からチラッと後部座席の和臣を見て、内心ため息をついた。
度胸がいいのか、無頓着なのか、和臣には緊張感が全くない。自分の立場が分かっているようには見えなかった。
そのまま視線を樹に向けると、マンションを出てからずっと無表情だった顔が、少し強ばっている。
樹の反応が普通なのだ。
先方は、樹さえ向こうの条件をのめば、和臣は顔を見ただけで許してやると約束したらしい。だが、そんな約束など屋敷の中にいったん足を踏み入れれば、どうなるか分からない。月城は樹の望む通りに、和臣を連れてここを出るよう最善を尽くすつもりだが、それも先方の出方次第なのだ。
電話で樹が話をした相手は、アメリカにいるはずの男だった。向こうの財界では名の知れた人物だが、今は現役を退き悠々自適の気ままな隠居生活を送っていると噂では聞いていた。まさか東北の裏社会と繋がりがあるなど、思ってもみなかった。
「きた」
樹が呟く。
月城は門の前に目を向けた。
全身黒ずくめの男たちに囲まれて、恰幅のいい老人が姿を現す。
「誰、あれ?」
和臣の問いを、月城も樹も無視した。
わざわざ呼び出した本人が門まで出迎えに来るとは、予想外だった。
「行こう」
樹はそう言ってシートベルトを外し、助手席のドアを開けた。和臣もそれに続く。
月城は大きくため息をついて、運転席のドアを開け外に出た。
先に門に向かう樹の後を足早に追いかける。樹は前を向いたまま
「僕じゃない。和臣くんを」
小さく囁いた。
月城は足を止め、自分より前に出ようとする和臣の腕を掴んで、無言で首を横に振った。和臣がひょいと首を竦めて、足を止める。
「久しぶりだな、樹」
嗄れてはいるがハリのある声で、老人が樹に話しかける。
「お久しぶりです。まさか、貴方が直々にお迎えくださるなんて」
樹の返事に、老人は機嫌よさげに微笑んで
「早くおまえの顔が見たかったのだ。……来なさい」
両手を広げ、片方の眉をあげる。
一瞬の間の後、樹は静かに歩き出した。
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