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愛しさの先にあるもの16
2人とも服を整えると、月城が薫を、樹が和臣を支えてドアに向かった。だが、和臣はすかさず樹の手を振りほどくと
「俺は平気だ。兄貴の方、支えてやれよ」
「でも」
和臣は首を横に振り、樹の腕を掴んで月城の方に押しやった。樹は気遣わしげに和臣を見ながら、おずおずと薫の腕に手を添える。
ドアは難なく開いた。外には、入った時と同じように黒服が2人立っていたが、4人が顔を出しても微動だにせず、無言で突っ立ったままだ。
月城は、用心の為に男たちに鋭い視線を向けたまま、足早に階段に向かった。
「俺が見張るから。足元よく見ろって」
和臣は後ろに立って周囲の様子を窺っている。月城は頷いて、まだ足元が覚束ない薫を、樹と一緒に注意深く支えながら階段を降りていった。
エントランスにも黒服が2人。
1人はここに来た時に身体チェックをして、所持品を没収した男だった。
「我々の荷物は」
月城の言葉に男は首を竦め、もう一人に無言で合図する。差し出された箱の中に、取り上げられた物は全て並んでいた。
警戒は解かぬまま、それらを樹と和臣に渡すと、月城は再び黒服を睨み
「薫さんの荷物はどこだ」
黒服は無言で、壁際に立てかけていたビジネスバッグを掴んで差し出してくる。それを受け取る時、男がす…っと身体を寄せてきた。
「いったい、どんな魔法を使った?あの人があそこまで慌てるとはな」
月城は男を睨んだまま、小声で答えた。
「魔法じゃない。戦術だ」
男はサングラスの奥の目を細めると、皮肉めいた笑みを浮かべて、もう一人と一緒に元の位置に戻る。
ドアを開け、4人は外に出た。車はエントランス脇に停まっている。そして、通りに面した大きな門も開いていた。
「至れり尽くせりじゃん」
和臣が呟いて、ひゅうっと口笛を吹く。
「まだ油断はするな」
月城は和臣を窘めると、後部座席にまず薫を乗せた。樹が後から乗り込むと、ドアを閉め
「君は助手席だ」
「了解」
和臣が乗り込んだのを確認してから、運転席に座ってエンジンを掛ける。
ゆっくりと車をスタートさせた。
ざっと目視した限りでは、怪しいものは見当たらない。だが、盗聴器や追跡用のGPS装置などが、見えない場所に仕掛けられている可能性もある。
とりあえずここを出て、いったん目的地とは違う方角に向かう。黒田に連絡して別の車で落ち合い乗り換えるのだ。
念の為、向こうに預けていた物は全て黒田にそのまま持って行かせて、徹底的に調べさせた方がいい。どこからどんな風に、こちらの動きや拠点が割り出されるか分からない。念には念をだ。
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