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愛しさの先にあるもの15
加賀見は電話を切ると、苛立ちも顕にスマホをベッドに放り出した。先程とは打って変わった鬼のような形相で、じろっとこちらを見ると、膝の上の樹を乱暴に脇に押しのける。
「……貴様か?手を回したのは」
凄む加賀見に、月城は無表情を返した。
この男が顔色を変えるということは、おそらく……連絡が取れたのだ。
「答えろ!貴様だな?ちょろちょろと余計なことを……」
月城は無言で加賀見を見つめた。
事態はようやく、こちら側に有利に動いた。
だが、まだ油断は出来ない。
加賀見が損得勘定を考える冷静さを失っていれば、どんな行動に出るか分からない。
加賀見は黙り込み、しばらくこちらを睨んでいたが、やがて忌々しげに鼻を鳴らすと、ベッドから降りた。黒服の差し出すガウンをひったくるようにして受け取り、羽織りながらドアに向かう。
部屋を出る前に加賀見は振り返った。
「おい。私を怒らせてタダで済むと思うなよ。次は必ず、樹を奪い返してやる。おまえとその男を、樹の前で嬲り殺しにしてやろう」
加賀見は狂人そのものの目をして吐き捨てるようにそう言うと、足音も荒く部屋を出て行った。
ドアが閉まると、月城は強ばっていた頬をゆるめ、ホッと肩の力を抜いた。
あの人はまた、樹を窮地から救ってくれたのだ。
シーツに転がされていた樹がガバッと起き上がり、ベッドから降りてよろけながら薫に歩み寄る。
「にいさん……。にいさん」
腕を伸ばし、薫の頬をそっと両手で包み込んだ。
薫は苦しげに顔を歪め、微かに呻く。
「樹くん、とりあえずすぐにここを出よう」
月城は、ベッドの奥のソファーに向かうと、男たちから解放されてぐったりしている和臣の頬を軽く叩いた。
和臣は呻きながら目をうっすらと開けると、頬を歪めて皮肉っぽい笑身を浮かべ
「終わったのかよ……」
「君は……無鉄砲すぎる。動けるかい?すぐにここを出るよ」
「……了解」
顔を歪めながら立ち上がった和臣を支えて、隣の応接ルー厶に連れて行った。
床に散らばっている服を拾い上げて和臣に渡すと、再びベッドルームに向かう。
あの様子では、薫はまだ1人では動けない。
ベッドルームに戻ると、樹は薫の頬を両手で包み込んだまま、ポロポロと涙を零していた。あんな酷い仕打ちを受けても、自分の身よりも薫のことが心配なのだ。
「樹くん」
月城はそっと声をかけた。
樹はビクッとして慌てて頬に伝う涙を拭うと
「うん。行こう。すぐにここを出ないと」
樹は恐る恐る薫に手を伸ばし、その身体を抱き締めようとした。
だが、途中で諦めたように力なく腕をおろす。
見ていて月城はせつなくなった。
自分が触れてはいけないと、樹は思っているのだ。
誰よりも愛しい兄に。
誰よりも抱き締めたい人なのに。
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