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愛しさの先にあるもの21
首をこちらに向け、ぼんやりと見つめていた薫が、何か言いたげに口を動かす。
すぐさま樹が向かうかと思ったが、樹は薫を遠くから見つめたまな動かない。
月城は、樹の肩にそっと手を置いた。
「薫さん。何か言いたそうだよ。行ってあげた方がいい」
樹はこちらを無言で見上げた。
その目が、「僕の代わりに聞いてあげて」とせつなく訴えてくる。
月城は微笑みながら首を振った。
「薫さんは、君のことが心配で、あいつらについていったんだ。君が話をして、安心させてあげないと」
酷なことを言っているとは思ったが、今、尻込みすれば、樹は今後もずっと自分の影に隠れてしまって、薫ときちんと向き合えない。
「ぁ…」
樹は口をもごもごさせて、反論の言葉を探している。
「……いつ、き」
その時、薫が声を出した。掠れた小声だが、樹はビクッと震えて彼の方を見る。
「さあ」
月城は、樹の背中をそっと押して促した。押し出されるようにして、樹の足が動く。
「い、つき……?樹なのか」
薫は今度はハッキリと樹の名を呼んだ。
恐る恐る側に寄った樹は、薫を見下ろす。
薫はシーツの上に力なく置いていた腕を持ち上げた。その手が真っ直ぐに樹に伸びていく。
「樹……」
「にい、さん……」
樹は今にも泣きそうにくしゃっと顔を歪め、薫の差し出した手をそっと掴んだ。
「おまえ、無事か?怪我は、してないのか」
「大丈夫。僕は、平気」
薫はほっとしたように頬をゆるめた。
「そうか……。よかった」
月城は少し離れた所から、2人の表情をじっと見ていた。
「ここは……」
「病院。にいさん、何か薬、やられてた、から」
樹の言葉に薫は顔をしかめ、記憶を探るような目になる。
「薬……。ああ……そうだ。……ずっと……眠らされていた。目が覚めると、今度は注射器で何かを、」
樹はきゅっと目を細め、空いている方の手を伸ばして、薫の頬に触れた。
「気分は?にいさん。気持ち悪く、ない?」
「ああ。気持ち悪くはないが…喉が」
その言葉に樹はすかさずベッド脇の備え付けの冷蔵庫から、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。蓋を開けストローを差し込んで、屈みこむ。
「にいさん、飲める?」
月城は、ベッドの向こう側にまわって、
「少し起こしますよ」
リクライニング用のボタンを操作して、ゆっくりと動かす。
薫は首をこちらに向け、訝しげな表情を浮かべた。そして、何かを思い出したようにハッとした顔になり
「君は……月城……」
「お久しぶりです。藤堂さん」
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