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溢れて止まらない15
「樹……」
思わず両手をもがくように樹に向けて伸ばしていた。それを見て、樹は戸惑ったように視線をウロウロと彷徨わせていたが、おずおずと近づいてくる。
薫は樹の腕を掴むと
「怪我は、ないのか?本当に未遂……だったんだな?」
「大丈夫。平気。心配しないで」
樹は頷いてぎこちなく微笑むと、薫の手に自分の手を重ねてきゅっと握った。
「そうか……。だから月城くんが聞いたんだな。何も覚えてないのかって。樹。俺は全然頼りにならない兄だが……それでも何かあったら俺に教えてくれ。離れている間も、ずっとおまえのことが気掛かりだったんだ」
「にいさん……」
「あ……いや、今さら……兄貴面するなと、思うだろうが」
樹は首を激しく横に振って
「そんなこと、思わない。心配してくれて、嬉しい。僕の方こそ……ごめんなさい。本当の弟で……ごめんなさい。にいさん、苦しかったでしょ?ごめんなさい」
薫は樹の華奢な腕を掴んでぐいっと引き寄せた。
「バカだな。おまえが謝る必要がどこにある。頼むから謝るなよ。おまえに謝られると、7年前の自分が情けなくてまた自己嫌悪になる」
薫は身を乗り出し、樹の身体をそっと抱き締めた。
「おまえは俺の、大切な弟だ。もう一度、会えてよかった」
「にいさん」
樹がおずおずと、背中に腕を回してくる。薫は想いを込めて、その細い身体を抱き締めた。
「にいさん、会社の方、大丈夫そう?」
電話を切ると、樹が遠慮がちに聞いてくる。
「ああ。打ち合わせの後で1本電話を入れていたからな。俺はそのまま直帰扱いになっていたらしい」
「そう。よかった……」
樹から借りたスマホを返そうとすると
「奥さんにも、連絡して。きっと心配してると思う」
「あ……ああ」
「僕、向こうに行ってるから」
樹はにこっと笑って、カーテンの向こうに消えた。薫は手に持ったスマホをじっと見下ろすと、小さく吐息を漏らしてから、冴香のスマホの電話番号を呼び出した。
「もしもし、俺だ」
『薫?あなたどうしたの?今日になってもあなた来ないし、電話を掛けても全然出ないし』
「ああ。済まない。昨日、ちょっと急な仕事が入ったんだ。残業していったんマンションに戻って、そのまま寝てしまった」
『もう……信じられない。来られないならせめて連絡して』
「すまない、冴香」
『今日も仕事なの?』
「そうだな。ちょっと……込み入っているから、2、3日かかるかもしれない。お義母さん、具合はどうだい?」
『大丈夫よ。一応入院したけど、それほど酷い症状ではないって。じゃあ貴方、今回はこっちに来られそうにないの?』
「仕事が片付き次第そちらに行くつもりだが……。まだちょっと分からないんだ。お義父さんとお義母さんに、よろしく言っておいてくれ」
『わかった。じゃあ、もう切るわね。ここ、病院だから。来られそうなら連絡して』
「ああ」
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