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溢れて止まらない17
「連絡、取れた?」
カーテンが開いて、樹がちょこんっと顔を出す。薫はにっこり微笑んで
「ああ。ありがとう。これ、助かったよ」
樹は頬をゆるめ、中に入って来た。
薫が借りたスマホを差し出すと、手に提げていたビジネスバッグを重たそうにベッドの上に持ち上げて
「これ。盗聴器とか変なものないか、一応調べてもらった。中の書類とかはなるべく見ないようにしてもらったけど……なくなってるものがないか、確認して、にいさん」
薫は樹からバッグを受け取り、開いてみた。
「悪いな、手間を掛けさせて」
「ううん。勝手に開けちゃってごめんなさい」
内ポケットに差し込んであるスマホを取り出し電源を入れてから、一応ざっとバッグの中身を確認してみた。仕事の資料や打ち合わせ用のノート、筆記用具など、自分が入れた時とほぼ変わりない。起動したスマホも、ざっと見た限りでは、特にいじられた様子はなかった。
「大丈夫そう……?」
心配そうに覗き込んでくる樹に、薫は頷いて
「ああ。大丈夫だ。何かなくなったりはしてないみたいだ。人に見られて困るような書類は、持ち歩かないようにしているからな」
「そっか……よかった。あ……でも、もしにいさんのスマホに、覚えがない相手からメールや電話が来たら、直接やり取りしないで僕に連絡して欲しいんだ」
樹はポケットから別のスマホを取り出すと
「連絡用アプリ。アドレス交換…いい?」
薫はアプリを起動しながら、樹の手の中を覗き込んだ。
「それは……おまえのスマホなのか?」
「あ……うん。そっちはね、仕事用の会社のスマホ。こっちが僕個人の」
薫は思わずふふっと笑って
「俺もおまえもスマホに昇格だな」
「え……?」
「あの頃、使っていたのはピッチだっただろう?」
薫の言葉に、樹はあ…っと目を見開き
「そっか……。そうだった」
呟いて、手元のスマホをじっと見つめる。
「アプリ、起動したぞ。かざすのか?」
「あ……うん」
樹は頷くと、スマホを持ち上げた。
お互いのスマホをかざして、IDを交換する。
「電話番号とメルアドは、これで送っておくから」
思わず「いいのか?」と聞きそうになった。樹は個人的な連絡先を教えてくれそうにないと思っていたのだ。
「ああ。……俺も送っておくよ」
「にいさん、約束して。絶対に1人で相手に連絡取ったりしないでね。必ず、僕に連絡して」
真剣な顔で念を押す樹に、薫も真面目な顔をして深く頷いた。
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