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月の光・星の光10
……家族のことでいろいろって……。
その話はそれで終わって別の話を始めた2人を見ながら、樹はさっきの薫の言葉が頭から離れないでいた。
……それって、僕と血が繋がってるって分かったから?にいさん……やっぱりすごく苦しんでたんだ……。
自分の母が薫の父の愛人だった。自分は許されない関係で生まれた子どもだった。
巧叔父に聞かされた時は、胸が潰れそうなぐらいショックだったが、薫の衝撃はもっと酷かっただろう。
そうは思っていたが、お酒に溺れて入院までしたと知って、樹は自分の手先が冷たくなっていくのを感じた。
……やっぱり僕は……
どうして自分はそんな風にしか、薫の前に存在出来なかったのだろう。何故もっと普通の関係でいられないのか。
「……樹」
薫に呼ばれて、樹ははっとして顔を見た。
目が合うと薫は苦しそうに顔を歪め
「樹。違うぞ、泣くな」
……え……?
言われて初めて、自分の頬が熱く濡れていることに気づいた。慌てて拭おうとした手を、薫が身を乗り出して掴む。
「違うんだ。俺が酒に溺れたのは、おまえのせいじゃないぞ。俺は自分が許せなかったんだ。樹。頼むから変な誤解はするなよ」
「……にい……さん……」
薫の手がぎゅっぎゅっとしてくれる。
樹はおずおずとその手を握り返した。
「もっとおまえといろんな話をすればよかった。にいさん、おまえと別れてからすごく後悔したんだ。一時の感情で、おまえに冷たく別れを告げてしまったことを、死ぬほど後悔していた。取り返しがつかないってな。自分のしてしまったことが許せなくて、おまえに会ってどうしても謝りたかった。……俺はダメな兄だよな。おまえが憧れてくれるようなにいさんになりたかったのに」
樹は泣きながら首を激しく横に振った。
「違う。にいさんは今でも、いつも僕の憧れのにいさんだから。ダメなんかじゃ、ない。そんなこと、ない」
「樹……」
薫の目からも涙が溢れている。
樹は温かくて大きな手をぎゅうっと握り締めた。
「君たちに足りなかったのは、会話だったんだな。お互いに腹を割って、もっと本音をぶつけあえればよかった。樹くんの話を聞いて、私はずっとそう思っていたんだよ」
樹の隣で2人を見守る朝霧が、穏やかに話し始めた。
薫は指先で涙を拭い、朝霧の顔を見つめる。
「部外者の私が余計なことを言うなと怒られそうだがね」
「いえ……いいえ。仰る通りだと思います」
「私は、樹くんの義理とはいえ父親だ。樹くんのことを大切に思うし、苦しんでいるなら手を差し伸べたいと思う。だからこそ、君に会って、きちんと話をしてみたかった。樹くんが、これから前を向いて自分の人生を生きる為にもね」
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