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月の光・星の光24
「おかえり」
ロビーにいる朝霧に、樹は歩み寄った。
「ただいま、戻りました」
ぺこりと頭をさげる樹に、朝霧はにこっと笑って頷くと
「どこに行ってたんだい?ファミレス?」
樹はぎこちなく微笑んで首を振り
「いえ。和臣くんの希望で国道沿いのハンバーガーショップに」
「そうか。ハンバーガーか。さすが若いね。病院の食事は栄養バランスはいいが、君には物足りないよな」
楽しげに笑う朝霧に、和臣は首を竦めて
「もう身体は何ともないんで」
「明日、退院出来るか医者に確認してみます」
月城の言葉に朝霧は頷いて
「うん。それがいいね。あちらに移っても自由に出歩くのはまだ無理だが、病院に閉じこもっているよりはマシだろう。樹。君のマンションに、和臣くんの部屋の余裕はあるかい?無理ならどこか別の…」
「いえ。大丈夫です。あそこ、広いから。それより…お義父さん、あの、」
樹がおずおずと切り出すと、朝霧は頷いて
「薫くんとは話をしたよ」
「そう……ですか……」
どんな話をしたのか、気になる。
自分のことを、朝霧はどこまで薫に打ち明けたのだろう。
「だが、和臣くんと違って薫くんはまだ体調がよくないな。あまり無理をさせてはいけないからね。軽く済ませて看護師を呼んだんだ」
樹は眉を顰め、廊下奥の病室の方に視線を向けた。
「彼は今、ぐっすり眠っているよ」
「……そう……」
朝霧はソファーから立ち上がると
「さて。私はそろそろお暇しよう。薫くんの体調がもう少しよくなったら、改めて時間を取ると約束したんだ。樹?」
「はい」
「月城くんを、ちょっと借りてもいいかな?」
「……え……?」
「ちょっと頼みたい仕事があるんだ。今夜は樹、君がこちらに泊まるといい」
朝霧の意外な申し出に、樹は月城と顔を見合わせた。
「でも……」
「薫くんはああいったことに慣れていない。かなりショックも受けているだろうし、勝手もわからない場所で1人にされるのはきっと心細いだろう。だから今夜は、君が側にいてあげなさい」
樹は開きかけた口を噤んだ。
朝霧は月城に目配せすると、和臣に歩み寄り
「明日、迎えに来させよう。君は今夜ひと晩、ベッドで大人しくしているんだよ、和臣くん。やんちゃをすると入院が長引くからね」
「なあ、ここの費用って、あんたが出してくれたの?」
「ああ。そうだ」
和臣は首を竦め
「だったら俺のボスはあんただ。大人しく言うこと聞くよ」
しぶしぶといった様子で答える和臣に、朝霧は楽しげに笑って
「そうしてくれるとありがたいな。じゃ、月城くん、行こう」
月城は和臣と樹を見比べてから、無言で頷いた。
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