123 / 148

月の光・星の光23

「どうしたんだい?変な顔をして」 朝霧が揶揄うような目をしている。 薫はちょっと情けない顔になり 「いや……。8歳も下の弟に……可愛いって言われるのってどうなんですかね。頼りないって言われてる気が……」 朝霧はふふふ…と吐息で笑って 「私も最初、聞き間違いかと思ってね。あの子の口からそういう言葉が出てくるのは意外だったからな」 朝霧は面白がっているが、薫としてはかなり複雑だ。頼りない兄だという自覚はもちろんあるのだが……。 「悪い意味ではないよ。それを口にした時のあの子の目を見ていたら分かる。樹くんは本当に、君が大好きなんだな…ってね」 薫はちらっと朝霧の顔を見て、微妙に目を逸らした。 朝霧が、自分と樹の関係についてどこまで詳細を知っているのかは分からないが、少なくとも単なる兄と弟でないことは分かっているのだ。 微笑ましげにそんなことを言われても、言葉通りに受け止める訳には行かない。 「頭がぼーっとするのは、処方されている薬の影響もあるな。少し長話し過ぎたらしい」 戸惑ったまま何も言えずにいると、朝霧はそう言って腕時計を見た。 「そろそろ面会時間も終わるな。今日のところは、この辺にしておこうか」 にっこり微笑む朝霧に、薫は視線を真っ直ぐに向けた。 「次はいつ、お会い出来ますか?」 確かに、薬のせいなのかちょっと頭が重たくなってきた。上手く言葉が浮かんでこないのも、疲れが出てきているのかもしれない。 「仙台には1週間ほどいるつもりだ。仕事の状況によっては、もう少し長く滞在出来るかもしれないな。君の体調が許せば、なるべくここにも顔を出すよ」 「そう……ですか」 朝霧には、まだ聞きたいことが山ほどある。 薫はホッとした。頭だけでなく身体全体が重怠くなってきた。また少し熱が出てきたのかもしれない。不甲斐なくて情けなかった。 朝霧は椅子から立ち上がると、ベッドの脇の操作パネルを覗き込み 「もう横になった方がいい。辛そうだ。看護師を呼ぶかい?」 背もたれがゆっくりと下がっていく。 薫は首を横に振って 「いえ。大丈夫です」 「無理をさせて悪かったね。お……」 不意に、朝霧のポケットから振動音が聞こえた。ポケットからスマホを取り出すと画面を見て 「樹くんからだ。失礼。ちょっと外すよ」 朝霧は、捲れていた掛け布団を胸の所まで引き上げてくれると、スマホを軽く掲げてからカーテンの向こうへと消えた。 薫は急激に重たくなってくる目蓋を必死に持ち上げようとしながら、揺れるカーテンをじっと見つめた。 ……樹が……。ダメだ。まだ寝たくない。樹に……

ともだちにシェアしよう!