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月の光・星の光34
「和臣くん、大丈夫?疲れてない?」
窓の外をぼんやり見ていた和臣が、こちらに顔を向けた。
「ん。全然。あんたこそ平気?運転、疲れたらどっかで休んだ方がいいぜ」
「僕は、大丈夫。もうすぐ、着くから」
和臣はゆっくりと瞬きすると
「ちょっと行ってくる、みたいなノリだったからさ。まさかこんな遠いと思わなかった。ここって…福島?」
「うん。浜通り。今から行くのは南相馬市」
「ふーん……。こんなとこに、あんた知り合いいるんだ?」
樹は頷いて
「僕は覚えてないけど、産まれてすぐぐらいに、住んでたことあるって」
和臣は目を見張った。
「あんたが?ここに?」
「うん。かあさんが…ここの出身」
「へえ……。なあ、樹さんってさ、薫さんの母親違いの弟だろ?」
樹はウィンカーを出すと、広い国道から田んぼの脇道に車を向けた。
「そう。僕のかあさんは、父さんの、愛人」
和臣はす…っと目を逸らし、フロントガラスの前に広がる景色を見つめて
「巧のおっさんに、聞いた。薫…さんの父親が浮気して産まれたのが、樹さんだって。でもさ、そんなの親の勝手な都合だろ?子どもは親、選べねえもん」
樹はふふ…っと笑って
「気を遣わなくて、大丈夫。僕も、今はそう思ってるから」
和臣はちらっとこちらを見て、何か言いたげに口を開きかけ、黙って首を竦めた。
「あと15分位で、着くよ」
「そっか。んじゃさ、そろそろ教えてよ。俺は何を見せられるわけ?」
樹は横目で和臣の表情を窺った。
「君に、会わせたい人がいる。君もよく知ってる人」
「誰?」
「巧…叔父さん」
樹の返事に、和臣は息を飲んだ。
「…冗談だろ……。なんで、あいつに…」
「彼が今、どうしているか、君は知っていた方がいいと思ったから」
和臣は眉をぎゅっと顰めた。
「今更……会ってどうすんのさ。てか、樹さんは平気なの?」
「僕は、何度も会ってる」
和臣の手が伸びてきて、腕を掴まれた。
「あんた、いまだにあいつと?もうとっくに縁が切れてると思ってた」
樹はウィンカーを出して道の端に車を停めた。ハンドルから手を離し、和臣の方に身体ごと向くと
「昔みたいな関係じゃ、ないよ。もう」
「じゃあなんで会ってるんだよ?わざわざ古傷、抉るみたいなこと」
和臣が強い力で腕を掴み締めてくる。
「君も、会えばわかる」
和臣は納得のいかない顔で、黙ってこちらを睨んでいたが、やがて首を竦めて手を離し
「俺は正直、会いたくねえよ。あのおっさんには。顔、思い出しただけで、吐き気がする」
「そう……。じゃあ、やめる?行くの」
「あんたは、俺が会った方がいいって思ってるんだよね?」
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